2011 Fiscal Year Research-status Report
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23659032
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 良文 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (10447443)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | カスパーゼ / 睡眠 / 神経免疫 |
Research Abstract |
本研究課題では、脳恒常性維持機構の代表例である睡眠における、カスパーゼシグナル活性化動態を解明し、睡眠圧に応答する神経機構を明らかにする。アポトーシス実行因子として知られるカスパーゼは、アポトーシス以外の生理現象にも関与することが近年明らかになってきた。哺乳類神経系では、カスパーゼ-3が培養スライスにおけるシナプス長期抑圧に、カスパーゼ-1が睡眠の調節に関与することを示唆する報告がある。しかし、これらのカスパーゼの活性化が生きている個体脳内のどの部位・細胞で、どのような制御を受けて調節されているのかは全く不明である。そこで本研究では、カスパーゼ活性化検出レポーターを発現する遺伝子改変マウスを用いて、脳恒常性維持過程におけるカスパーゼ動態を可視化する系を樹立することを目指している。申請者が近年樹立したカスパーゼ活性化を検出する蛍光蛋白質プローブSCAT発現トランスジェニックマウスを用い、これまで検出できなかった微弱なカスパーゼ活性化の検出を試みる。本年度は、睡眠圧亢進刺激に応じてカスパーゼ活性がどのように変化するか、また変化するとしたらどの領域においてなのか、を同定するため、以下の実験を行なった。カスパーゼ3活性化を検出できるSCAT3トランスジェニックマウスに対し睡眠圧を亢進させる断眠刺激を与え、そののち脳の各領域を摘出し、SCAT3の切断を調べる「in vivo基質切断アッセイ」を行なった。その結果、大脳皮質、視床、視床下部、脳幹におけるカスパーゼ-3の活性化は、断眠時と通常時で有意な差は認められないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではカスパーゼ活性可視化マウスとして、カスパーゼ3活性検出SCAT3トランスジェニックマウスと、カスパーゼ1活性検出プローブSCAT1を発現するSCAT1トランスジェニックマウスを用いることを想定している。現在までに、研究実績の概要に記したように前者における検討は行なえている。一方で、後者における検討が行なえていない。これは、後者は新規に樹立したトランスジェニックマウスであり、内在のカスパーゼ1活性をそもそも検出できるかどうかの評価を現在行なっているためである。したがって、睡眠圧亢進刺激に対する応答性の評価までは到達できていない。しかしながらこれまでの検討で、マクロファージ等の免疫系細胞や脳内ミクログリアにおける内在のカスパーゼ-1活性の評価系が確立しつつあるので、今後は脳内カスパーゼ-1活性の評価に進んでいけるものと期待できる。一方、脳の各領域でのカスパーゼ-3活性化をウエスタンブロッティングで調べた限り、断眠時と正常時でその活性化に大きな差は認められなかった。これはカスパーゼ-3が断眠応答には関与しないことを示すデータであるが、脳の領域の細分化が現在の方法で良いのかという問題は残っている。より細分化して検討を行うことで、微細な領域における差は認めることができるかもしれない。そこで、脳領域の分け方に関しては、もう少し検討が必要であると考えている。以上のように、研究計画自体は着実に進行しているが、当初の進展よりはやや遅れている。しかしこの点は、新規トランスジェニックマウスとその評価系が確立できつつあり昨年度末には日本分子生物学会での報告も行なえているので、本年度における挽回が強く期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、睡眠圧亢進時にカスパーゼ活性亢進を示す領域を同定することを目指す。前年度までに行なえなかった、睡眠促進物質であるIL-1betaの分泌に関与するカスパーゼ-1の活性化部位をまず同定することが最重要と考えている。具体的には、前脳前野、視床下部、脳幹、髄膜といった睡眠制御に関与する領域におけるカスパーゼ-1活性化に注目して研究を行なっていく。生理的睡眠欲求の亢進(断眠)に加え感染時の睡眠誘導(LPS腹腔注射)という刺激の違いにより、カスパーゼ活性化細胞の種類や分布パターンが異なるかどうかもこの解析により明らかにできる。しかし、この観察は脳組織をすりつぶして用いて行なうため、細胞レベルでの情報を得ることはできない。この点を検討する為に以下の実験を行なう。SCAT1マウスは、Cre-loxPシステムを用いた部位・組織・細胞種特異的発現が可能なように構築されている。カスパーゼ活性化を確認した脳領域でどのような細胞種が実際に応答しているのかを確認するため、その細胞種のみでCreを発現するマウス(神経系細胞:nestin-Cre, 髄膜:Mesp1-Cre,Wnt1-Cre)と掛け合わせる事でSCATを特定の細胞種のみで発現させる。この状態で睡眠圧亢進処理を行なった場合にカスパーゼ活性の亢進を確認する。以上の解析により、睡眠圧亢進に応答してカスパーゼ活性化を示す細胞種を同定することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度の研究から、研究遂行にはあらたにテレメトリーシステムの導入が必要であると考え、本年度はその導入を考えている。以下にその理由を述べる。このテレメトリーシステムは、生体マウス内にセンサーを埋め込みそこからのシグナルをケージ下に置いたレシーバーにより受け取ることにより、体温や行動量の測定ができるシステムである。本研究では、感染刺激や断眠刺激を加えた際のマウス個体の振る舞い及び生体反応性を調べる為に用いられる。マウスにおける睡眠はヒトとは異なり多相性であるため、同一実験時刻でも個体によって睡眠状態が異なる。そのため、感染刺激や断眠刺激を加えた際のマウスが睡眠状態にあったかどうかの確認ができないと、個体間で脳内カスパーゼ活性化状態が異なった場合における評価が難しい。この点を克服するには脳波を測定するという手法が最も直接的ではあるが、現在の施設環境では難しい。一方、マウスの行動量をモニターするテレメトリー等のシステムは、現在の施設環境でも実験可能でかつおおまかな睡眠の有無を判定するには適している。また、感染刺激による体温上昇等も同時にモニターできるため、一石二鳥である。このテレメトリーシステムの導入により、睡眠圧亢進と脳内カスパーゼ活性化との相関が明らかにできると強く期待される。テレメトリーシステム以外には、実験に必要なマウス個体の購入費用、繁殖・維持に要する餌代・床費代それにケージ・給水瓶の補充が必要である。残りの研究費はこれを賄うために用いる。
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Research Products
(2 results)