2011 Fiscal Year Research-status Report
生体内在性鎮咳物質は生体でどんな役割をもつのか?ー難治性咳との関わり
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23659139
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
高濱 和夫 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (80150548)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白崎 哲哉 熊本大学, 生命科学研究部, 准教授 (30264047)
副田 二三夫 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (10336216)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 生体内在性咳抑制物質 / ヒト血漿タンパク質 / 咳嗽反射 / 難治性咳嗽 / 鎮咳薬 / 下気道求心性神経放電 / モルモット / 血液凝固因子 |
Research Abstract |
我々がヒト血清中に発見した物質Aが、ng(ナノグラム)/kgの極微量でモルモットでの器械的刺激による咳を抑制することはすでに明らかにしていた。そこで本年度は、以下の項目について検討した。第一に、この知見について、正常モルモットを用いて確認するとともに、気管支炎病態モデルやACE阻害薬処置動物での難治性の咳に対する作用を調べ、この物質Aの作用本体が何であるのかについても、検討を加えた。第二に、この強力な鎮咳活性の作用メカニズムを追究する一環として、その作用が中枢性に発現しているのか、末梢性に発現しているのか、上喉頭神経刺激法を用いて調べた。さらに、咳に関連した下気道求心性神経放電に対する作用を調べるための準備を進めた。第三に、咳の発現・抑制と関わりのある気道抵抗に対する作用を追究した。 その結果、第一の項目については、物質Aは、正常モルモットのクエン酸誘発咳、ACE阻害薬処置や亜急性気管支炎モルモットの難治性咳を4~8ng/kgという極微量で強力に抑制した。また、物質Aにより活性化される別の物質や中和抗体で処理した物質Aは鎮咳作用を示さなかった。第二については、物質Aは、上喉頭神経の電気刺激により発現する咳を抑制しなかった。また、モルモットの下気道求心性神経放電を記録できるところまで準備ができた。第三については、マウスの0.1秒率に対する作用を検討したところ、強力な鎮咳効果の見られた8 ng/kgで作用は見られなかった。 以上の成績から、(1)物質Aは生体内在性の鎮咳活性物質であること、(2)その鎮咳活性は、コデインの奏功しない難治性の咳嗽反射も抑制すること、(3)鎮咳活性は、物質Aの酵素活性に基づき、この物質A自体が鎮咳活性を有していること、(4)物質Aの鎮咳活性の作用は、末梢性ではなく、中枢性に発現している可能性があること、が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目的は概ね達成できたと考えている。生体内在性鎮咳作用物質を見出したとき、これは、その物質本体に活性があるのか、その代謝物か、それともこの物質のもつ酵素活性が関与して活性化された物質が作用をもつのか、など基本的に解明しないといけない事項があった。 本年度の研究において、物質A本体に活性があることがほぼ確実となり、こんごの研究を進める基盤ができた。ヒトで鎮咳活性が認められるか否かを動物実験で評価する場合、様々の評価系で多面的に評価することが不可欠である。また、咳と一口に言っても難治性からコデイン感受性をもつものまで様々であるため、鎮咳活性のプロファイルを明らかにすることも重要である。さらに、何より、本物質は、ng/kgという極めて極微量で鎮咳活性を示していたので、これが間違いないことを確認しておくことも重要である。これらの件についても、物質Aが正常動物はもちろんのこと、複数の難治性咳嗽モデルに対しても強力な鎮咳活性をもつことを明らかにできた。 メカニズムについて,末梢性か中枢性か明らかにすることは、薬物の作用メカニズムを追究するに当たってきわめて重要であるが、この点についても、ほぼ中枢性ではなく、末梢性のメカニズムによることを示唆する知見を得ることができた。また、下気道求心性神経放電を記録できるようになったので、次年度に向け、作用メカニズムを追究して行く準備が整ったことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、大きく4つの研究を実施したい。 第一は、鎮咳活性の他のモデルでの検討である。これについては、これまでに、予備検討を重ねており、フリーリームービング(無麻酔・無拘束)条件下で、咳嗽反射を惹起する手法を確立しつつある。そこで、このモデルを用いて、物質Aが鎮咳活性を発揮するか否かを調べる。従来の鎮咳活性評価法は、麻酔下や、プレチスモグラフに閉じ込めて、自由に動き回れない、拘束下の実験であるため、より自然な状態で発現する咳に対しての作用を調べることができなかった。本法はこれを克服できる、世界で初めての試みでもあるので、是非、確立し、実施したい。 第二は、メカニズムの追究である。これも23年度から準備を進め、下気道求心性放電を記録できる状態になったので、様々な咳刺激物質を下気道の近位動脈内に投与し、誘発される放電に対する物質Aの作用を調べ、作用メカニズムを追究する。さらに、傍気管神経節ニューロンを単離し、これに対する作用をパッチクランプ法で調べたい。 第三は、この物質Aの血中レベルと咳嗽の発現量との関わりについて、検討したい。この物質Aは血液凝固活性を有しているので、咳刺激物で咳嗽反射を起こした時の血液凝固活性の強さを調べ、咳発現と咳抑制物質の関わりについて、基礎知見を得たい。 可能であれば、第四として、この物質Aが難治性の喘息を始めとする呼吸器系疾患モデルに対して作用をもつのか否かについても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に実験動物モルモットの購入費用に充てるが、求心性放電を誘発するための咳刺激物質などの購入費としても用いる。また、平成24年度は、第7回の国際咳嗽シンポジウム(7th International Symposium on Cough)がロンドンで開催される。このシンポジウムは、咳嗽に関する世界トップクラスの研究者の集まりであるので、このシンポジウムに出席して成果を発表し、批評や評価を得たいと計画している。そこで、このための旅費に約30万円を充当したい。 物品費: モルモット150匹(@3000)450,000円、ラット50匹(@2000)100,000円、マウス100匹(@400)40,000円、試薬費(ブラジキン、酵素など)310,000円、器具費(プラスチック器具など)100,000円. 旅 費:第7回国際咳嗽シンポジウム(ロンドン)300,000円
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