2011 Fiscal Year Research-status Report
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23659185
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鶴山 竜昭 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00303842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽賀 博典 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10252462)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 肺癌 / 質量分析 / 組織マイクロアレイ |
Research Abstract |
肺癌細胞の固有のバイオマーカーを同定することを目的として、多数の肺癌患者を一括して正常肺組織との対照群とともに400名分の組織小片を一枚の顕微鏡観察スライドガラスに載せた組織アレイを6枚作製した。 患者の診断情報との照合によって各スライドガラス別々の癌組織、特に肺の異型腺腫様過形成(AAH)、細気管支肺胞上皮癌(BAC)、浸潤性腺癌病変組織を選び、正常な肺組織を正常対照群として共に一個のパラフィンブロック(ホルマリン固定パラフィン包埋ブロック、以下FFPE)に包埋することを実施した。 FFPEは、質量分析、免疫染色に使用可能なように、薄切毎に、慎重に特殊コーティングガラスに伸展させた。FFPEの薄切におけるプロトコール(FFPEの冷却など)を確立し、スライドガラス上に等間隔に並んだ直径数ミリ大の組織片(以下コアとよぶ)を効率よく搭載することに成功した。等間隔に並べることでスライドガラス上の座標軸を設定することが容易となり、質量分析でのレーザ照射の地点を事前に設定することができ、照射プログラムのオートメーション化に有利となった。各組織コアは、スライドガラスにパラフィンを伴って搭載されるため、脱パラフィン化が必要であるが、作業中の振とうによるコアの脱落を防ぐためのプロトコールを作製した。 脱パラフィン後、免疫染色、質量分析に適した状態に処理するため、蛋白質分解処理、有機溶剤および報告者が開発した別途の方法で処理し、質量分析による肺癌、正常部との比較における十分な強度かつ有意な質量電荷比(m/z値)ピークを得ることにつとめた。以上のようにバイオマーカー検索に必要な技術および試料処理のプロトコールはほぼ確立した状況である。 このように各医療施設に保管されているFFPEが光学顕微鏡による観察以外の研究使用への道が開けたことが大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来のホルマリン固定パラフィン包埋ブロック、以下FFPE)を用いた質量分析方法に比べて質量電荷比(m/z)の各ピーク値は50-100倍程度に増感された。さらにバックグランドに対するシグナルピーク値で有意なシグナルも従来法が一度の測定で100個のオーダーであったものが報告者の開発した方法で10000個のオーダーに増加させることができた。これにより十分なシグナル強度と有意なシグナル数を確保できたことになり、続けて実施したシグナルに対応するペプチドの同定にも十分に使用に耐えうる方法となった。以上の方法は、論文にまとめ、現在投稿中である。 現在、正常肺と肺癌組織の質量分析方によるペプチドの違いの検討を実施している。得られた10000個のシグナルと、その組織内の二次元分布を比較することにより、癌細胞の分布とよく相関するものを同定することにつとめている。比較の際には、病理専門医である申請者自身が確認を行い、肺癌細胞の間接的な要因である線維化、炎症による変化と区別し、肺癌細胞との直接的な相関があるものを探している。その結果、肺癌との相関がよいペプチドが同定されはじめている。 各ペプチドは、市販されている抗体で免疫染色が可能なものを選び、組織膜クロアレイで系統的に染色を実施しはじめた。候補にあがっているもののうち、肺癌の浸潤による間接的な組織傷害に起因しているものが多く含まれることが明らかになり、癌細胞本体の特異的なバイオマーカーは限られているようであるが複数の固有のタンパク質がすでに同定されてきており、今後そのバリデーションを上記の免疫染色による組織上の存在および、修飾の可否も含めた存否をFFPEからの抽出タンパク質の確認によりすすめている。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の2つの方向を引き続き実施し、将来の肺癌細胞におけるシグナル伝達経路異常、ゲノム変異との関連につなげていきたい。(1)質量分析シグナルの感度・特異性の向上:基礎段階として、質量分析による分析感度、特異性の一層の向上をめざす。また、肺組織の特徴としての肺胞間スペースがあり、照射レーザーの相当部分が癌部に照射されていないことが一定程度起こる。さらに肺癌組織は、肺胞壁の線維性結合組織が多く含まれる。このため、非特異的なシグナルとして、肺胞壁のコラーゲンなどが検出されることが多く、データのノイズとして現れてしまうことが多い。このような結合組織を化学処理し、質量分析のデータから取り除き、必要なシグナルを得ることが、現在の課題となっている。マイクロアレイ組織のタンパク質分解処理、化学処理の最適化を実施しプロトコールをさらに改善することにより、このような課題に対処していきたいと考えており、結合組織ノイズ発生を克服することにより、より肺癌細胞特異的なシグナルの検出を容易にしていきたい。(2)バイオマーカーの同定:(1)と関連して、得られたシグナルの二次元分布を明らかにするため、ペプチドイオン化のために用いられるマトリックスの選択、さらには、イオン化のレーザー照射地点を増加させることに努める予定である。後者は特に二次元分布情報を得るために十分な解像度を得るため、組織全体にくまなく照射をするために重要である。特に、組織構築が確認できる直径が4ミリ大の比較的大きなコアまたは、経気管支肺生検などの組織を解析するときには肺癌細胞の分布との照合が重要となる。一度の解析で限界とされる10000地点のレーザー照射点に迫るまで、解像度の限界に迫りたい。これにより肺癌細胞の二次元分布との正確な相関解析が可能となることが期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、以下の3項目にあてる。(1)質量分析基礎技術の一層の向上:質量分析用の特殊コーティングガラスの購入にあて、質量分析の検出技術感度および特異性の一層の向上につとめる。マイクロアレイ用のスライドガラスへの搭載費用にもあてる。(2)質量分析結果の組織化学による確認:マイクロアレイ組織の免疫染色による、質量分析データのバリデーション、ペプチドの同定および二次元分布との照合を行う事に用いられる。肺癌に特異的なマーカーは、市販されている抗体を購入し、通常方法の免疫染色を実施する、または、染色が困難なものは増感法試薬を用いる方法で染色を行い、質量分析データの二次元分布との相関による確認を実施する。このように染色に必要な試薬に費用が充てられる。(3)質量分析結果のタンパク質化学による確認:抗体を用いたウェスタンブロット法による直接的な確認を行う。具体的にはFFPE組織からマイクロダイセクションによる病変部の切り出しを実施し、そこからタンパク質を抽出し、液相クロマトグラフとあわせた質量分析、またはウェスタンブロットにより免疫染色を実施する。これらの方法によりタンパク質の発現レベルを正常部との比較によって定性的かつ定量的に癌組織での発現の増加を確認していく。可能であればタンパク質のリン酸化抗体を用いてタンパク質の活性化の検討を用いることに費用をあてたい。(4)学会・論文報告費用:すでに報告、論文投稿しているFFPE標本の化学処理によるシグナル増感方法は報告した。これに加えて、実際の癌組織での発現の特異的増加が認められるものは「特異的マーカー」として論文にまとめ、成果を関連学会、論文で公表することに費用を使用する予定である。
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