2011 Fiscal Year Research-status Report
脱分化型胸腺上皮細胞株を用いた自己・非自己識別制御の解析とその検証
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23659246
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
笠井 道之 徳島大学, 疾患ゲノム研究センター, 講師 (10194705)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 胸腺上皮細胞 / 胸腺 / 胸腺微小環境 / Tリンパ球レパトア形成 / 中枢性免疫寛容 |
Research Abstract |
胸腺を構成する多様な皮質および髄質上皮細胞サブセット上の自己抗原分子由来ペプチドとMHC分子との複合体は、分化途上のT細胞がMHC拘束性と自己寛容性をそれぞれ獲得する上で重要なリガンドである。しかし、そのような各皮質および髄質上皮細胞サブセットにおける複合体形成の分子制御機構に対する理解はまだ不十分である。本年度は、マウス胎児胸腺から脱分化型の上皮細胞株と皮質部由来上皮細胞株の樹立と、それらの細胞株が胸腺微小環境の構築し、胸腺T細胞の増殖・分化を支持することの検証を行った。 Doxycycline存在下でOct-4転写因子を発現する構造遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス胎児胸腺およびbeta5t(胸腺皮質上皮細胞に特異的に発現するプロテアソームサブユニット)の発現をコードする領域に緑蛍光タンパク質(Venus)をノックインしたトランスジェニックマウス胎児胸腺からそれぞれ胸腺上皮細胞株を作製した。Doxycycline存在下でOct-4転写因子を発現する構造遺伝子を組み込んだマウス胎児胸腺から得られた細胞株は髄質上皮細胞のマーカー分子を発現し、Doxycycline存在下でOct-4およびNanogを高度に発現し脱分化型の表現系を示した。一方、非存在下ではその発現量が低下するとともに胸腺上皮細胞マーカーであるFoxn1分子の発現量が増加し、分化型に移行することが判明した。一方、beta5t領域にVenusをノックインしたマウス胎児胸腺から緑蛍光を指標に細胞を分離した結果、Foxn1分子を発現するとともに胸腺皮質細胞の形態分子マーカー(CD205)と機能分子マーカー(beta5t)を特異的に発現する胸腺上皮細胞株を得た。現在、これらの細胞株から胸腺器官培養を行い、さらにそれをマウス腎臓皮膜下に移植することで、それら細胞株の胸腺構造と機能の再構築可能性を検証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マウス胎児胸腺からDoxycycline存在下で脱分化型の表現系を示す髄質部由来胸腺上皮細胞株及び皮質部上皮細胞特異的分子マーカー(beta5t,CD205など)を発現する皮質部由来胸腺上皮細胞株をそれぞれ作製することができた。現在、それらの細胞株が胸腺微小環境を再構築する可能性と胸腺T細胞のpositive selection 及びnegative selectionを行う機能を有する可能性について、器官培養で作製した再構成胸腺をマウス腎臓皮膜下に移植する実験を行い検証中である。しかしながら、器官培養方法と再構成胸腺移植方法の最適化検討に時間を要している。以上の検証実験が継続中であることを考えて、"やや遅れている"と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度については以下の2つの研究に焦点を絞り研究を進める。1.マウス胎児胸腺からDoxycycline存在下で脱分化型の表現系を示す髄質部由来胸腺上皮細胞株(Oct4-TEC)及び皮質部上皮細胞特異的分子マーカーを発現する皮質部由来胸腺上皮細胞株(b5t-TEC)を用いて胸腺皮質上皮細胞および髄質上皮細胞に関する形態分子マーカーと機能分子マーカーについての発現をさらに詳しく調べると共に、さらに、胸腺器官培養法により胸腺皮質あるいは髄質上皮細胞に再び分化し、胸腺微小環境を再構築することが可能なのか、さらに、胸腺T細胞の増殖と分化(レパートリー形成)対して機能的に作用するのかを検証する。2.胸腺微小環境の構築と胸腺T細胞の増殖とレパートリー形成に機能的に作用することが検証された胸腺上皮細胞株を用いて自己抗原分子の発現制御機構と抗原提示制御機構の解析を行う。特に、自己抗原分子の発現制御、そのプロセッシング、およびそれに由来する自己ペプチドとMHC分子との複合体形成の制御機構に関与する分子についての解析を進めると共に、免疫応答誘導と制御におけるその分子の免疫学的な重要性を胸腺器官培養法で検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は以下の計画で研究を進める。1.Oct4-TECとb5t-TECを用いて胸腺皮質上皮細胞および髄質上皮細胞に関する形態分子マーカーと機能分子マーカーの発現をDNAアレイと免疫組織染色法で詳しく解析する。さらにそれらの細胞で胸腺器官培養した後、マウス腎臓皮膜下に移植し、胸腺を再構築する可能性を免疫組織染色法で解析する。さらに、その再構築胸腺内でそれらの細胞株がT細胞の増殖とpositive selection 及びnegative selectionを支持する機能を有する可能性をセルソーターで解析する。2.抗原提示に関与する分子を発現させる条件で(IFN-g存在下で)Oct4-TECとb5t-TECを培養する。免疫組織染色法で形態分子マーカーと機能分子マーカー発現の変化とその刺激により発現する自己抗原分子とその分解・提示を制御する分子をDNAアレイと免疫組織染色法で解析する。胸腺皮質上皮細胞および髄質上皮細胞に関する形態分子マーカーと機能分子マーカーの発現および自己抗原の発現と分解を制御する分子の発現制御はゲノム上の脱メチル化の程度に影響を受けるのかについても検討を加える。さらに、Oct4-TECまたはb5t-TECを用いた胸腺器官培養を行い、それをヌードマウス腎臓皮膜下に移植する。胸腺の生着を確認した後、免疫組織染色法で自己抗原分子の発現パターンを解析する。一方、発生するT細胞のレパートリーとその機能に関する異常の有無をセルソーターで解析する。加えて、ヌードマウスにおける免疫学的な異常所見の有無を調査する。 繰越金が発生した原因は、樹立した胸腺上皮細胞株が胸腺微小環境と機能を再構成する可能性についての検証実験に時間を要したためである。この繰越金を合わせることにより24年度の研究計画の第1項目の研究を加速させる予定である。
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