2011 Fiscal Year Research-status Report
サーモグラフィを手法とした感染制御のための発熱判定ガイドラインの構築
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23659277
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Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
芝田 宏美 兵庫医療大学, 薬学部, 助手 (20509137)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小柴 賢洋 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70301827)
堀江 修 神戸大学, 保健学研究科, 助教 (50304118)
夏秋 優 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (60208072)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | サーモグラフィ / 感染制御 / 発熱判定 / 皮膚温度 / 新型インフルエンザ |
Research Abstract |
23年度の目標は、発熱患者と健常者のサーモグラフィデータの蓄積と解析、発熱患者の病態解明である。本年度のサーモグラフィ測定データが本研究結果の動向の要となる重要な成果である。 発熱患者のサーモグラフィデータの収集は、発症初期の患者が対象に最も適するため、測定施設は一次救命救急病院である、神鋼病院救急外来と尼崎生活共同病院夜間内科外来で行った。インフルエンザ疑いの患者を中心に発熱患者のサーモグラフィ測定を行い、約80例のデータを集積することができた。データの精度においても、馴化時間や室温・湿度といった環境条件を、日本サーモグラフィ学会の診断基準に準じた規定にて測定できており、精度の高いデータを集積することができた。発熱患者の病態解析においては、インフルエンザのタイプ、体温、症状、発症時期、服薬状況、周囲のインフルエンザ罹患状況、体質などについて、精査と詳細な問診を行っているため、病態とサーモグラフィの関係がより明らかになることが可能と推測される。 健常者のサーモグラフィ測定は、ボランティアを対象に70例のデータを蓄積した。特に、人工気象室で測定を行っておりサーモグラフィデータの精度が極めて高い。 発熱患者と健常者のデータ解析を行い比較検討した。現在検疫所で用いられている発熱のカットオフ値の課題が明らかになったため、発熱の判定に皮膚温度分布を追加する意義が明確となった。また、顔面の中で最も高温を示す部位として眼部が推奨されることがわかった。 さらに当初の計画に追加して、薬事法承認のヒト用サーモグラフィ装置と工業用サーモグラフィ装置の比較検討を行った。現在検疫所で使用されることが多い工業用装置は、高く温度を算出しさらにバラツキが大きい欠点があるため、カットオフの温度だけの判定では発熱の検出が困難であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
23年度は発熱患者のサーモグラフィ測定を行い、病態と体表温度の関係を証明することが第一の目標であった。まず、倫理審査委員会の承認を得て病院での検査を施行し、データを順調に蓄積することができた。医療チームの連携を含めて、データ集積に関するシステムの構築を確立できたことは、来年度のデータ集積に繋がる大きな成果である。 23年冬季のインフルエンザは例年に比べて大規模な流行とはならなかった。このため、研究計画で当初予定していた患者数よりも少ないデータ集積に止まった。このような事態を早期に予測できたため、対象を厳選して正確に測定を行うことにより、対象数が少ないながらも精度の高いデータが集積できた。すなわち、疾患群と健常者の比較や新たな診断基準の指標の草案を構築する上では、支障なく有効な結果に導くことができるように研究計画を設定し得た。 サーモグラフィ測定装置の追加研究が必要であることは、本研究が開始され機器購入後に明らかとなった。検疫所で使用されている機器と同じ企業の装置を用いて健常者の測定を行ったところ、異常値を算出することがわかった。そこで、性能が確立されている他社の装置と校正装置を用いて、温度の差異の検討を行った。このデータをもとに機器の校正を行えば信頼度は向上する。この追加検討は、本研究の精度を大きく向上することになる。そして、最も大きな貢献は、現在検疫所で使用されている装置にも応用可能としたことである。確かに当初の研究計画の進行度には影響したが、本研究の本来の目的である感染制御の確立には欠くことのできない検討であり、遂行したことは大きな成果となった。 以上のことから、対象数が予定より少なかったが、システムが構築できたことや精度の高いデータが得られていること、また追加研究を行ったことから、達成度は少し遅れていると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度の予定計画より発熱患者のサーモグラフィデータの測定数は少なく、24年度でも引き続きデータ集積を行う。インフルエンザの流行状況により、測定施設数を増やすことも念頭においている。現在、研究に使用できるサーモグラフィ装置は1台しかない。順調にデータを蓄積するためには、新たにサーモグラフィ装置を購入し、測定の幅を広げる必要がある。患者の病態についても、さらに詳細に調査を進めるため、患者検体を用いて分子生物学的手法によりインフルエンザの型の識別を行う。来院時に簡易検査でインフルエンザが陰性であっても、日数が経過すると陽性になることがみられる。このため患者検体からウィルスの核酸を抽出し、リアルタイムPCR法にて正確で迅速な診断を行う。 24年度の予定計画に準じ、まず地域環境ごとの健常者の顔面皮膚温データの集積を行う。このデータを基に日本サーモロジー学会カイドラインの正常値と比較する。そして顔面皮膚温の差分を算出し温度補正値を明らかにする。これらのデータが揃うことにより、発熱判定の基準は全国の検疫所で使用することが可能となる。そして、ガイドラインが汎用されるため、発熱判定のためのソフトを開発し、サーモグラフィ検査の経験が少ない検査者でも、容易に発熱判定ができるシステムを構築する。このソフトの開発は日本サーモロジー学会と一丸となって行う。ソフト完成後、懸念されるのは企業が単に売上目的だけで作成したソフトを機器に導入して販売し、正しい使い方や検査法をユーザーに伝えないことである。そこで学術的な裏付けと公平な市場を考慮し、学会を介してソフトを広めることを念頭に置き、知的財産権の確保のため特許申請を視野に入れている。 そして、最終的にガイドラインの科学的根拠の立証を行い、感染制御のための発熱判定ガイドラインを完成させることを目標にしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度研究費の主な使用計画は、日本全国地域ごとのサーモグラフィデータ蓄積・ソフトの開発である。次年度に使用予定の研究費を想定したが、 23年度にインフルエンザは大規模流行せず、このため24年度には対象数の増加を優先する必要性があることから、サーモグラフィ装置の追加購入が主な理由である。機器は24年度に購入した方が安価なため、研究費を効率的に運用できると考えた。また、本研究は挑戦的萌芽研究であり、さらにインフルエンザは冬季流行のため、初年度に結果をまとめるのが困難な研究である。ゆえに24年度は積極的に学会発表・論文投稿を行う。発表には研究旅費がかかるが、日本の動向が注目されている本研究が広く認知されるには必要な予算であり積極的に進めていきたい。
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