2011 Fiscal Year Research-status Report
c-Srcと脳機能障害:新規生体機能モニターマウスによる解析
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23659368
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
加藤 梧郎 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (60177441)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アルコール医学 |
Research Abstract |
Srcセリン75にリン酸化の阻害変異(SA)及び擬似変異(SD)を各々導入した SD及びSAマウスを用いて、野生型、SD変異型、SA変異型各マウスにおける急性のエタノールの脳に及ぼす効果(催眠効果)の相異を正立反射消失時間の測定により評価した。1.測定系の確立。(1)測定槽。アクリル製のV字型の測定槽。(2)測定マウスの性別。オスマウスのみ。(3)投与エタノール量。20%エタノール生理的食塩水液を用い、3mg/g体重のエタノールを投与。(4)マウスの月齢。月齢が高いほど正立反射消失時間の個体間差が大きく、3カ月齢に限定。(5)消失時間の決定。5回連続して30秒以内に起立した時間を正立反射回復時間と定義。(6)エタノール投与後の生体行動反応。投与後の酩酊状態の一定化、また、出血(血尿)、死亡、催眠効果の未発現等の抑止、投与後3分経過後測定開始。(7)その他。ナイーヴマウスの使用、測定時間帯の設定。上記のように各要因を検討した結果、SD及びSA各点変異の導入の正立反射消失時間への影響を再現性よく評価できるシステムが確立された。これは今後の展開に道を開く重要な成果である。2.NMDARのエタノール感受性に果たすc-Srcの役割:SD及びSAマウスと正立反射消失時間測定系を用いた解析。SA変異型では、野生型とヘテロ変異型、或いはホモ変異型との間に消失時間の差がなかった。一方SD変異型では、野生型に比べてヘテロ及びホモ変異型の消失時間が短縮する傾向が見られた。これらの結果は、測定サンプル数がまだ、充分ではないので断定することはできないが、NMDARの上方制御分子であるSrcのセリン75の燐酸化が脳NMDARのエタノール感受性を制御しているというこれまで未解明の重要な発見につながる可能性を示している。3.血中エタノール濃度の測定、Harris らの方法に準拠し測定系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Src独自の機能を生体レベルで、とりわけSrcの発現が高い脳神経系における生体機能は、Src完全欠損(ノックアウト)マウスでは他の類縁酵素の機能相補により検討できないと考えられる。そこで、私共が作製したSrcのユニーク領域内のセリン75にリン酸化の阻害変異(SA)及び擬似変異(SD)を各々導入した新規の遺伝子改変マウスを用いて、脳NMDARのアルコール感受性がSrcに特異的なチロシンリン酸化により制御されているのかを生体レベルで明らかにしようとしている。平成23年度ではエタノールの正立反射行動への影響を解析し、SrcのSD変異及びSA変異によるその影響の変動を明らかにすることが目的であった。実績概要に示したように、正立反射行動消失時間の測定を再現性と信頼度を確保できるように予備的試行を繰り返して努力した結果、評価系として確立することが達成された。SD系及びSA系変異マウスにおいて、野生型、ヘテロ、ホモの3カ月齢オスマウスの準備には、時間と労力を要するが、昨年度中にSA においてはほぼ解析を終了し、SD変異においては、飼育設備のトラブルによる影響もあって、60%にとどまっている。しかし得られた限りの解析では、Srcのセリン75リン酸化がエタノールによる正立反射消失を制御している可能性が示されている。これらを総合してやや遅れているという自己評価にした。血中エタノール濃度の測定は、変異マウスが野生型と比べて正立反射消失に変動が明らかになった場合、アルコール代謝には変動が無いことを確認するためのものであり、現時点では測定準備のみを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
1.正立反射消失(急性期のエタノール感受性)に及ぼすSD およびSA変異の影響について充分な測定サンプル数に至るまで前年度に引き続き実施する。2.エタノール長期投与及び中断による影響の評価急性期のエタノール感受性に SD変異またはSA変異と野生型マウスの間に有意な差異があるかどうか判明したら、エタノールの長期投与後の離脱による効果の相異について各遺伝子型マウスを用いて明らかにする。即ち、マウスをIso法により5%エタノール/スキムミルク/シュクロース/水を投与し、所定の日数後(検討の必要があるが6日を基準とする)、エタノールを除いた食餌に戻す。その後、一定時間ごとに(最大48時間)エタノールの長期投与後の離脱による効果を示す身体上の兆候をRitzmann and Tabakoffの評価基準で観察する。3.脳NMDARサブユニット内のチロシンリン酸化:急性期のエタノール感受性に、SD変異またはSA変異と野生型マウスの間に有意な差異がみられた場合、脳NMDAR各サブユニット内のチロシンリン酸化の変動を明らかにする。iエタノール投与後、一定時間経過したマウスから摘出した脳よりホモジネートを調製し可溶化バッファーで可溶化後、NR2A 及びNR2Bサブユニットに対する抗体で免疫沈降する。ii沈降物を抗ホスホチロシン抗体や、Srcによりリン酸化されると推定されるNMDARのリン酸化部位に対する抗リン酸化部位特異抗体でウエスタンブロッティングを行いNMDAR各サブユニットのチロシンリン酸化レベルの変動を解析する。また、離脱による効果が野生型マウスと各変異マウス間に差がみられた場合、エタノール離脱後一定時間経過したマウスから摘出した脳よりホモジネートを調製し可溶化バッファーで可溶化後、上記のようにしてNMDAR各サブユニットのチロシンリン酸化レベルの変動を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
超低温フリーザーを努力により低価格で購入できたため、次年度使用額(15,426円)が派生したが、これは試料保存用のプラスチックチューブに充てる。物品費は、薬品類、プラスチック器具、放射性同位元素、マウス飼育器具及び電気泳動転写装置に充てる。内訳は、免疫沈降法、ウエスタン法に必要な抗体類が380,000円、マウスの遺伝子型決定(PCR法)に必要な酵素に46,000円、組織可溶化に用いる試薬・酵素類が14,000円で合計440,000円を薬品類に使用。チューブ類三種と遠心フィルターチューブ、プラスチックピペット、及びチップ等のプラスチック器具に合計60,000円。マウスの遺伝子型決定において、ドットハイブリダイゼーションで使用するオリゴヌクレオチドプローブの5’-末端標識に用いる32Pヌクレオチド類(放射性同位元素)に61,000円。エタノールの長期投与後の離脱による効果(エタノール依存度を示す兆候)の評価のために用いるマウスの給餌器の購入に40,000円。脳の多くのタンパク質の中からNMDARを分離する電気泳動や,c-Srcによりリン酸化されたNMDARのみを検出するために行うウエスタンブロッティング法に必要な泳動転写装置に340,000円。その他の費用として、6年かけて独自開発した遺伝子改変マウスの維持と繁殖のため、マウスの管理委託費(山梨大学動物実験施設の遺伝子組換えマウス用飼育室において一日当たり一ケージ平均6.23円)として159,000円を使用する。
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