2011 Fiscal Year Research-status Report
死のメディエーターHMGB1を指標とするアセトアミノフェン中毒の新規法医診断法
Project/Area Number |
23659370
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 稔和 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70251923)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アセトアミノフェン / HMGB1 |
Research Abstract |
本研究は,死細胞由来の新規核因子high mobility group box protein-1 (HMGB1)の全身及び局所における動態を指標とする,アセトアミノフェン中毒の分子法医診断法確立の可能性を検討するものであり,動物実験による基礎的データの収集と,剖検試料を用いた実務的検討から成る.具体的には,マウスを用いて実験的にアセトアミノフェン肝障害を惹起させ,全身及び局所で起こる現象を分子病理学的に解析して肝障害発生時のHMGB1の生物学的意義を解明する.さらに,実際の法医剖検例から得られた試料についてHMGB1量及び局在を検討して,動物実験で得られた結果と比較・検討し,法医実務において有用な分子指標となり得るか否かについて評価する.1.アセトアミノフェン中毒モデルの作製:8週齢の雄C57BL/6マウスに,アセトアミノフェン400 mg/kgを腹腔内投与して肝障害を惹起させる.アセトアミノフェン投与後,経時的にマウスを屠殺し,血液並びに肝臓を採取して試料とする.2.血清肝逸脱酵素の検討:採取した血液の一部を血清分離して,血清肝逸脱酵素(ALT及びAST)の測定を行ったところ,アセトアミノフェン投与後10及び24時間でコントロールと比べて有意に高値を示した.3.病理組織学的検討:採取した肝組織を用いてパラフィン包埋切片を作製し,各切片についてHE染色を行い,形態学的変化を観察したところ,アセトアミノフェン投与後24時間の肝組織において,著明な出血及び小葉中心性の肝細胞壊死などの変化を認めた.4.HMGB1の局在の検討:肝組織切片を用いてHMGB1に対する抗体を反応させて免疫染色を行い,経時的局在の変化を検討したところ,正常肝では肝細胞核に,アセトアミノフェン投与後肝では肝細胞質に陽性所見を認めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,アセトアミノフェン中毒の新規分子法医診断法の確立を最終目的とし,"死のメディエーター"と呼ばれる核由来因子high mobility group box protein-1 (HMGB1)に着目してアセトアミノフェン中毒発生の分子機構を解明する.HMGB1は死細胞から分泌タンパクとして細胞外に放出され,種々の炎症性疾患に関与していることが示唆されているが,その病態生理学的役割は不明である.アセトアミノフェン中毒におけるHMGB1の役割を分子病理学的に検討し,その病態生理を的確に把握することにより,HMGB1の動態が法医実務においてアセトアミノフェン中毒の有用な指標となり得るか否か検討する. HMGB1は細胞外に放出されると,諸臓器のバリアー破錠と炎症を引き起こすことから,臓器不全における"死のメディエーター"と呼ばれ注目されている.これを法医学的に鑑みると,HMGB1の放出量やその動態は,生前生体がどのような侵襲をどの程度受けたかを評価する際の有用な分子指標となり得ると考えられる.本研究では,アセトアミノフェン中毒におけるHMGB1の動態及び局在を,実験動物並びに剖検試料を用いて全身性と局所性の両面から検討する.さらには,HMGB1の病態生理学的役割を解明することにより,HMGB1がアセトアミノフェン中毒における生体反応の分子指標として法医学的意義を有するか否かを評価する. 本年度は,動物実験による基礎的データの収集を行う."死のメディエーター"HMGB1の動態の特徴を詳細に検討し,アセトアミノフェン肝障害発生への関与及びその分子機構を解明する.これまで,おおむね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の検討で得られた結果を基に,マウスにアセトアミノフェン肝障害を惹起後,HMGB1の動態の特徴をさらに詳細に検討し,アセトアミノフェン肝障害発生への関与及びその分子機構を解明する.さらには,アセトアミノフェン肝障害の病態形成に関与しているとされる炎症性サイトカインやケモカインと,HMGB1との相互作用についても検討することにより,アセトアミノフェン中毒の分子機構の全容を明らかにする.また,マウスにアセトアミノフェン肝障害を惹起後,HMGB1に対する中和抗体(200 mg)を腹腔内投与して種々の解析を行い,生体におけるHMGB1の役割及びその重要性を証明する.また,HMGB1中和抗体投与と炎症性サイトカインやケモカイン遺伝子欠損マウスとを組み合わせた実験を実施し,HMGB1による炎症反応誘導の分子機構解明を試みる.さらに,これら実験的研究を鋭意継続しながら,法医実務への応用研究として,実際の法医実務において薬物中毒と診断された事例について血液及び肝臓を採取し,HMGB1の動態を全身及び局所の両面で検討する.血液試料を用いてELISA法によりHMGB1を定量するとともに,肝組織を用いて免疫染色によりHMGB1の局在を検討する.得られた結果を,実験動物を用いた実験結果と比較・検討し,HMGB1の動態が法医診断学に応用可能か否かについて評価し,新規分子法医診断基準の確立を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究実施のために必要である研究設備については,小動物用血液生化学検査装置,高解像度デジタルカメラ付き顕微鏡,微量測定分光光度計を現有しており対応可能である. 本研究では種々の物質の発現動態を,遺伝子レベル(real time RT-PCR法)及び,タンパク質レベル(免疫染色,ELISA法,Western blotting法)で解析する.定量的real time PCR装置,マイクロプレートリーダー,化学発光測定装置については申請者の所属する研究室に設置されており対応可能である. 各種サイトカインやケモカイン遺伝子欠損マウスは,すでに当大学の動物施設で順調に繁殖しており,本研究に必要なマウスを十分に供給できる状況にある. 本研究では,動物実験による基礎的データ収集のためにおよそ100匹のマウス(1,700円/匹/初年度)を必要とし,その飼育・管理費用(約20千円/月)が必須である.消耗品は,免疫染色関連試薬(40千円/月),生化学検査試薬(30千円/月),タンパク定量ELISA kit(35千円/月)が必要と考えて費用を算出した. 年間1回の国内学会での発表,年間1回の国際学会での発表のための旅費を申請する. 本研究で得られた成果を発表するための論文投稿料及び論文印刷費を申請する.
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