2011 Fiscal Year Research-status Report
骨髄由来血管内皮前駆細胞は皮膚損傷の受傷後経過時間判定のための指標となり得るか?
Project/Area Number |
23659371
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
近藤 稔和 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70251923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 章彦 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60136611)
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 骨髄前駆細胞 / EPC / ケモカイン / 皮膚損傷 / 受傷後経過時間 |
Research Abstract |
近年,骨髄には多分化能を有する様々な幹細胞が存在することが明らかにされている.特に骨髄由来の血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell, EPC)は,皮膚損傷治癒にも関与していることが明らかにされつつある.しかしながら,皮膚損傷治癒過程におけるEPCの動態は十分に解明されていない.そこで,本研究ではEPCに着目し,皮膚損傷治癒過程において損傷部局所でのEPCの検出にチャレンジし,EPCの動態を明らかにすると共に,この細胞の動態が皮膚損傷受傷後経過時間判定のための有用な指標となり得るか否かについて検討した.1)マウスの骨髄細胞を採取して,蛍光色素で標識した後,再びマウスに蛍光標識した骨髄細胞を導入し,皮膚損傷を作成したところ,その治癒過程において蛍光標識された骨髄細胞が損傷部に集積することが明らかとなった.集積した骨髄細胞が血管内皮細胞に分化することが明らかとなった.2)損傷部に集積した骨髄細胞を特定するために,マウス皮膚損傷部を経時的に採取してFACS解析を行ったところ,損傷部に集積する骨髄細胞は,血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell, EPC)であることが判明した.3)EPCが損傷部に集積するメカニズムを解明するために,EPCを培養して,ケモカインレセプターの遺伝子発現を検索したところ,EPCにおいてCCR1,CCR2,CCR5及びCXCR4のケモカインレセプターの発現を認めた.さらに,EPCがVEGFやTGF-βを産生していることも明らかとなった.以上のことから,皮膚損傷治癒過程において骨髄由来EPCがケモカインシグナルによって損傷部に動員され,局所で血管内皮に分化することによって,損傷治癒に関与していることが判明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
法医実務において,皮膚損傷の受傷後経過時間判定は必須である.これまで受傷後経過時間判定のために,皮膚損傷治癒に関与する様々な細胞や分子(増殖因子やサイトカイン)の探索が行われてきた.そこで,本研究ではEPCに着目し,皮膚損傷治癒過程において損傷部局所でのEPCの検出にチャレンジし,EPCの動態を明らかにすると共に,この細胞の動態が皮膚損傷受傷後経過時間判定のための有用な指標となり得るか否かについて検討し,より客観性の高い皮膚損傷受傷後経過時間判定法を確立することである.本研究課題は,基礎的研究と実務的研究の二つに分類される.基礎的研究では,マウスを用いて,皮膚損傷モデルを作成し,その治癒過程におけるEPCの動態やEPCの性質を明らかにする必要がある.本年度は,まず基礎的研究においてEPCが損傷部局所に骨髄から集積していることを明らかにすることができ,さらに,皮膚損傷組織におけるEPCの動態やEPCにおけるケモカインレセプターや増殖因子の遺伝子発現を確認することができた.このことは,皮膚損傷治癒においてEPCが骨髄から動員されることにより,血管内皮に分化したり,増殖因子を産生することにより肉芽組織の形成に深く関わっていることを示しているものと考えられる.これらの基礎的研究成果は,ヒトの皮膚損傷治癒においてもEPCの重要な役割を示唆するものであることから,次年度の研究の発展に寄与するものと考えられるからである.
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Strategy for Future Research Activity |
今後においては,培養EPCで遺伝子発現が確認されたケモカインレセプターCCR1,CCR2,CCR5及びCXCR4について,抗体投与実験や遺伝子欠損マウスを用いて,EPCが骨髄から皮膚損傷部へ動員されるための分子メカニズムについて解明を試みる.さらに,法医実務への応用的研究として,法医剖検例において,受傷後経過時間が判明している皮膚損傷試料について,基礎的研究で得られたEPCに対する適切な抗体の組み合わせによる二重免疫蛍光染色によりヒト皮膚損傷組織におけるEPCの検出を試み,さらに動物実験同様,ケモカインレセプターに抗体を用いた三重免疫蛍光染色により特異的にEPCの検出を試みる.そして,EPCの発現様式と受傷後経過時間の関連性について統計学的解析を行い,EPCを指標とする皮膚損傷の受傷後経過時間判定法を樹立する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では,マウス及びヒトの皮膚損傷組織における骨髄由来血管内皮前駆細胞の動態を,フローサイトメトリー,免疫染色および免疫蛍光二重染色法により解析する.本研究に必要なフローサイトメーターおよび蛍光顕微鏡は,研究代表者の所属する共同研究機器室に設置されている.本研究では,基礎的研究において年間約100匹のマウス(1,600円/匹)を必要とし,その飼育費用(約20千円/月)が必須である.また,本研究の消耗品はフローサイトメトリーに関する試薬(60千円/月),免疫染色関連試薬(60千円/月),蛍光免疫染色関連試薬(40千円/月),プラスチック器具類(25千円/月)が必要と考えて消耗品費を算出した.平成24年度は,年間各1回の国内学会での発表及び国際学会で発表のための旅費を申請する.本研究で得られた成果を発表するための論文投稿費用及び論文掲載料を24年度に申請した.
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Research Products
(3 results)