2011 Fiscal Year Research-status Report
HTLV-1によるT細胞分化制御機構のハイジャック
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23659484
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邉 俊樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (30182934)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 和民 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (60549591)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | CD4陽性T細胞 / HTLV-1 Tax / Helios / スプライス変異 / ドミナントネガティブ |
Research Abstract |
悪性T細胞腫瘍ATLの原因ウィルスHTLV-1はCD4陽性T細胞に選択的に感染すると考えられてきた。しかしHTLV-1の感染レセプターは、広汎な細胞種に発現するGLUT1であることから、感染時に標的細胞特異性は無く、感染後にHTLV-1がT細胞分化機構をハイジャックし、偏ったCD4陽性T細胞への分化を誘導している可能性が考えられる。我々はT細胞分化に関わるIkarosファミリー転写因子、Heliosの発現異常をATL細胞で発見した。そこで本研究ではHTLV-1の感染によるHelios発現異常の誘引と細胞への影響に注目し研究を行っている。以下にH23年度の研究結果を報告する。1.正常Heliosの機能解析:転写因子Heliosの標的遺伝子はほとんど同定されておらず、Heliosの異常がT細胞分化にどのように影響するか具体的には分かっていない。そこで我々はJurkat細胞でHeliosをノックダウンし、遺伝子発現アレイ解析を行った。その結果細胞周期や細胞増殖の調節に関わる多くの遺伝子の発現が、Heliosによって直接的、間接的に制御されていることが分かった。2.異常HeliosがT細胞分化機構に与える影響: HeliosはC末の2量体化ドメインによってホモまたはIkarosとのヘテロ2量体を形成し機能する。ATL患者PBMCでは特にsplicing異常によってN末のDNA結合ドメインの多くを欠損した異常型Heliosが顕著に観察された。この異常型Heliosは、他のHeliosやIkarosと結合するが、DNA結合能を失っており、転写因子としての機能を持たないことを見出した。つまりATL細胞で発現している異常型Heliosは、機能を果たさないだけではなく、正常なHeliosやIkalosと結合することにより、それらの機能も阻害するドミナントネガティブな存在であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の研究室ではATL患者のT細胞においてHeliosの変異体が存在することは発見していたが、23年度の研究により、そのATL型HeliosがDNAに結合する機能を欠損しているにも関わらず、正常なHeliosやIkarosと2量体を形成する能力は保持していることから、ドミナントネガティブな存在となっていることを見出した。このことから、ATL細胞では異常型Heliosの発現が正常なT細胞の分化・機能を乱している可能性が示唆され、23年度の研究計画「HeliosがT細胞分化に果たす役割と、ATL細胞のHeliosの発現異常がT細胞の分化機構に与える影響」において、重要な知見を得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の「HeliosがCD4陽性T細胞の分化調節に果たす役割」についての実験計画ではマウスモデルを用いた実験を多く取り入れる計画であったが、遺伝子発現マイクロアレイ解析を行うことにより、Heliosの標的遺伝子の探索を網羅的に行うことができた。よって今後はアレイ解析の結果を基盤にして、Heliosの異常によって影響を受ける遺伝子を絞り込み、培養細胞を使った実験により検証していく予定である。HTLV-1関連疾患マテリアルバンク(JSPFAD)および東大医科学研究所付属病院の内丸薫医師のご協力により、HTLV-1キャリアやATL患者検体を用いた研究が可能となったため、実際にHTLV-1キャリアの中でHTLV-1感染によってHeliosの発現にどのような影響が生じるのか、Helios発現異常はATL発症にはどのような関わりがあるのか、検体を用いた解析によって追求していく予定である。さらに、異常Heliosの発現、つまり異常なスプライシングが起こるメカニズムについても、細胞株を用いた分子生物学的実験によって明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H23年度には、Heliosノックダウンの影響を遺伝子発現マイクロアレイ解析によって検討することにより、Heliosによって直接的・間接的に制御を受けている標的遺伝子の探索を網羅的に行うことができた。当初の実験計画ではマウスモデルを用いた実験を多く取り入れ、Heliosの重要性を確認する実験を行う計画であった。しかし今年度はマイクロアレイ解析の結果を活用し、Heliosの異常によって影響を受ける遺伝子を絞り込み、Heliosの機能解析およびその異常が細胞の癌化に及ぼす影響について、おもに培養細胞を用いた実験を行い、検証していく予定である。また、HTLV-1関連疾患マテリアルバンク(JSPFAD)および東大医科学研究所付属病院の内丸薫医師のご協力により、HTLV-1キャリアやATL患者検体を用いた研究が可能となったため、実際にHTLV-1キャリアの中でHTLV-1感染によってHeliosの発現にどのような影響が生じるのか、Helios発現異常はATL発症とどのような関わりがあるのか、検体での遺伝子発現マイクロアレイ解析の結果や、検体培養細胞を用いた実験などにより追求していく予定である。さらに、ATL細胞ではHeliosを含む多くの遺伝子にスプライシング異常が生じていることが分かっている。我々はATL患者PBMCの遺伝子発現プロファイリングによって、スプライシングの制御に関わる数々の因子の発現が撹乱されていることを突き止めている。この情報を基盤に、異常Heliosの発現、つまり異常なスプライシングが起こるメカニズムについても、分子生物学的実験によって検証する。
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