2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23659548
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 靖 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (10567754)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ケミカルバイオロジー / 皮膚科学 / 悪性黒色腫 |
Research Abstract |
本研究では、悪性腫瘍のG0静止期に集積し、ストレスに対するsurvival kinaseであるDYRK1Bに着目し、その特異的阻害剤を独自に確立し、また悪性黒色腫静止期細胞を解析するツールを新たに開発する事で、化学療法抵抗性獲得の機序を解明することを目的とした。まず申請者らが独自に開発した高選択的DYRK阻害剤阻害剤INDY が、DYRK1Bを生細胞内で効果的に阻害することを確認した。INDYがHUVEC細胞をはじめとした、非癌細胞株において、目立った毒性を持たないことを確認した。DYRK1Bを高発現する悪性腫瘍細胞株において、INDYは単独で抗腫瘍効果を持ち、他の抗癌剤との同時投与において、INDYがアジュバントとして抗癌剤の作用を増強することを確認した。この効果はDYRK1Bを高発現しない悪性腫瘍細胞株では認められなかった。 悪性黒色腫に対してDYRK1B阻害剤を投与することの妥当性を検討するために、当皮膚科で外科的摘出を受けた悪性黒色腫の標本に対して免疫染色を行い、実際の悪性黒色腫の病巣において、DYRK1Bが発現していることを確認した。DYRK1Bの染色は悪性黒色腫のin situ病変よりも病気の進行した病変で顕著になる傾向が観られたが、統計的にはまだ結論は出ていない。比較のため、我々は他の皮膚悪性腫瘍である有棘細胞癌についても同様の検討を行い、DYRK1Bの発現が同様に認められることを確認した。有棘細胞癌ではDYRK1B陽性細胞の分布と割合が悪性黒色腫と比べやや不均一である傾向が観察された。多数の悪性黒色腫及び有棘細胞癌の培養細胞株を入手して培養し、DYRK1BのmRNA、蛋白質の発現レベルを検討し、これら悪性腫瘍細胞株で比較的高い発現を確認した。これら細胞株にDYRK1Bが抗腫瘍効果をもつことを確認した。その詳細なメカニズムの検討を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
患者病理組織による検討、および、培養細胞レベルでの検討についてはほほ期待通りの進展を得ていると考えている。また、悪性黒色腫以外に、有棘細胞癌についても本研究の応用可能性を広げることができ、この点については当初の想定以上に成果を上げていると考えている。また、我々独自のDYRK1B阻害剤が少なくともin vitroで有用であるという予備的な知見は得られている。一方で、このように視野を広げたために、使用する悪性腫瘍細胞株の選別と決定が当初の見込みよりも遅くなり、マウス担癌モデルの作成が遅れる結果となった。そのため、in vivoにおけるINDYの効果を検討するための実験の進行が遅延している。一方で、INDYおよびその誘導体において、静注時の血清中濃度、髄液以降等の基礎データは有している。また、悪性腫瘍静止期細胞におけるG0期レポーター細胞系の作成について、遺伝子組換え細胞系を用意に作成するためのLife Technologies 社のJump-In Targeted Integration systemを使用する実験系を確立した。一方で、現在の所、 G0期を適切にin vivoで観察するための、使用に耐えうるコンストラクトが未だ得られておらず、この点については当初の期待よりも進行が遅延している。DYRK1B がG0期に特徴的に集積する蛋白質のため、この性質を模倣した発光タンパクレポーター系を作成することを目的としているが、特定の蛋白質の発現制御を再現するためにはmRNAの安定性制御、蛋白質安定性の制御の双方を最適化する必要が有り、良好な結果を得るためには、多数のコンストラクトの組み合わせを検討する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究方針について、これまでの計画から方向性の大きな修正は必要はなく、今後も現在の方針を、より深化して進行することが望ましいと考えている。一つの証左として、本研究を開始して以降、海外の2つのグループが独立に、悪性腫瘍においてDYRK1B阻害がもたらす抗癌剤効果増強作用について報告していることが挙げられる。これら論文はそれぞれ膵癌、卵巣癌を対象としてDYRK1Bの病理学的意義を検証しており、皮膚悪性腫瘍である悪性黒色腫を標的として、また独自阻害剤及びレポーター系の開発を目的としている本研究とは、やや方向性を異にしているが、その成果は本研究のコンセプトの妥当性の傍証たりうると考えられる。従って、今後の方針としては、これまでの本研究の成果を基に、担癌マウスモデルの作成に向けた検討を行い、適切なin vivoモデル系でINDYの悪性黒色腫に対する抗癌剤アジュバント効果の実証をおこなうことを第一の目的としている。また、DYRK1B阻害剤の抗癌剤アジュバント効果の分子細胞生物学的機序として、悪性腫瘍静止期細胞の阻害を示すためのレポーター系作成を引き続き進行する。DYRK1Bの細胞周期依存的発現を模倣したレポーター系作成のために、mRNA動態制御因子、蛋白質安定化因子を様々に組み合わせたコンストラクトを複数作成し、また他のG0期集積蛋白質の遺伝子を用いたコンストラクトについても検討する。臨床検体を用いた病理検討については、現在予備的では有るが示唆的なデータを得ており、今後より多数の検体を検討することにより、DYRK1Bの発現と、病期、予後予測について統計学的に意義のある関連性が得られるか検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度の予算について、動物実験に関わる費用、すなわちマウスの購入にかかる費用、および維持費用、実験的操作に必要な消耗品にかかる費用として700,000円を計上している。レポーター作成のためにベクター作成費用として200,000円を計上している。培養細胞系でのアッセイのために培地やキット類などの試薬代として150,000円を計上している。すべての実験について必要な、プラスチック製品などの消耗品にかかる予算として、211,799円を計上している。また、学外連携研究者との打ち合わせのための交通費、成果発表の費用として100,000円を計上している。
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