2011 Fiscal Year Research-status Report
TOFーSIMS(飛行時間型質量分析)顕微鏡を用いた角質バリア機能可視化法の開発
Project/Area Number |
23659555
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
久保 亮治 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (70335256)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 質量分析 / 飛行時間型質量分析顕微鏡 / アトピー性皮膚炎 / 角質バリア / セラミド |
Research Abstract |
アトピー性皮膚炎の要因として角質バリア障害が注目されている。だが、角質のバリア障害を観察評価する手段は限られており、角層内の物質分布を観察する方法も同じく限られている。本研究では、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)顕微鏡を用い、角質内の物質分布の新しい可視化方法、角質バリア機能の新しい可視化方法を開発している。 今年度はまず、TOF-SIMSにより観察するのに適した皮膚サンプルの作成方法の最適化、観察手法の最適化を行った。マウス尻尾を粉末ドライアイス中で急速凍結してサンプルを作成し、クライオスタットにて凍結切片を作成。サンプルを融解させることなく直接フリーズドライすることで、融解によるサンプルダメージを防止した。フリーズドライした凍結切片は、走査型電子顕微鏡観察用の導電テープを予め-25℃に冷却しておいたものでピックアップした。以上により、可溶性分子の拡散による非特異的シグナルの増加を防いだサンプル作成が初めて可能となった。 導電テープ上のサンプルをTOF-SIMSにて観察した後、同じサンプルを蛍光染色して蛍光顕微鏡にて観察・撮影し、TOF-SIMS解析により得られた画像データと蛍光顕微鏡観察した画像をスーパーインポーズすることにより、マウス尻尾中の構造とTOF-SIMSの観察結果を対応させることに成功した。 マウス尻尾全体をTOF-SIMSを用いて観察したところ、細胞豊富な領域である筋肉が高K低Na領域として観察されるのに対し、間質豊富な領域である結合組織は低K高Na領域として観察された。次に、精製したセラミド6をTOF-SIMSにて解析し、セラミド6のマススペクトルデータを得た上で、セラミド6に特徴的なピークをマウス尻尾断面上で画像化したところ、同ピークは角質領域から特異的に観察され、TOF-SIMSによる角質セラミドの検出に成功したと考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
質量分析顕微鏡の強みは、プローブを用いる必要がないため、物質そのものの分布を直接観察できることと、一度の観察で様々な物質を同時に解析できることである。MALDIを用いたものは質量分解能には優れるが、解像度が50~100μmと粗いのに対し、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)は質量分解能には劣るが、1μm以下の解像度を誇る。本研究では、(1) TOF-SIMSを用いた皮膚切片の観察方法を開発し、(2) アミノ酸の角質内分布の可視化、(3) 金属イオン(Ni, Crなど)の角層への浸透の可視化、(4) バリア障害時の角層の構造変化、金属イオン浸透度変化の解析、(5) 保湿薬によるバリア障害修復の評価、を目的としている。 今年度は目標通りに、TOF-SIMSを用いた皮膚切片の観察方法を確立することに成功した。また、角質セラミドを特異的に角質から検出することにも成功しており、概ね順調に研究は進展している。また、次年度で解析するための角質バリア障害マウスについても、フィラグリン欠損マウス、flaky tailマウス、クローディン1欠損マウスが準備されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
角質層への物質浸透を画像化するために、まずプローブの選定を行う。プローブに用いる物質は、TOF-SIMSにより高感度に検出可能であり、かつ皮膚に元々存在する量がTOF-SIMSによる検出感度以下である必要がある。元来、TOF-SIMSは金属イオンの検出感度に優れることから、様々な金属イオン、中でもクロムやニッケルといったヒトにおけるアレルギーに関係する金属イオンをプローブとして用いることを検討する。さらに、それらの金属イオンの角質への浸透を画像化する。 次にフィラグリン欠失マウス皮膚の解析を行う。フィラグリンは角層内で分解されてアミノ酸にまで至ると考えられている。すなわち、フィラグリン欠失マウスでは、角質内アミノ酸の供給源であるフィラグリン蛋白が消失しているため、角質アミノ酸量が減少していることが予想される。また、フィラグリンの分解過程には様々な酵素が関与していることが判明している。しかしフィラグリン分解の調節機構は全く不明である。何重にも積み重なっている角質層のどこで分解されているのか、角質層全体にフィラグリンの分解産物は均等に分布しているのか、それとも偏った分布を示すのか、言い換えれば、角質層は均一なバリア構造物なのか、それとも何層かの特徴を持った層からなる構造物なのか?角質内のアミノ酸分布の可視化を通じて、これらの疑問に答える。さらに、フィラグリン欠失マウス皮膚において金属イオンの浸透実験を行い、フィラグリンの欠失および角質アミノ酸量の減少により、正常皮膚と比べて角質バリア機能がどう変化しているのかを明らかにする。さらに、保湿剤の塗布によりフィラグリン欠失マウスにおける皮膚バリア障害の治療を試み、金属イオンの角質層への過剰な浸透を防御できるのかを観察する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
TOF-SIMS装置は販売価格1億円を超える高価な設備であり、当研究室単独で購入できるものではない。また、TOF-SIMSによる測定は熟練を要するため、専任のオペレータが必要である。そこで、本研究課題では、TOF-SIMSの開発・販売をおこなっているアルバック・ファイ株式会社の協力を得て、サンプルを当科にて作成し、測定はアルバック・ファイにて行うこととした。測定の条件設定のために頻繁にアルバック・ファイを訪れる必要があり、そのための交通費を計上していたが、Skype会議などの活用により直接の訪問を減らすことができ、経費を抑えることができた。また、予備実験を効率よく進めることができたため、消耗品などの使用にかかる経費も節約することができた。次年度は様々なバリア障害マウスの皮膚をTOF-SIMSにて測定するために、マウスの購入・移動・飼育費が今年度以上に必要であるが、今年度に節約できた分、次年度では当初予定していたフィラグリン欠損マウスの解析だけでなく、flaky tailマウスやクローディン1欠損マウスなど、複数のバリア障害マウスの解析を行うことが可能となり、それらのマウスの飼育維持費用に繰り越し分の研究費を使用する予定である。
|