2011 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症を合併した22q11欠失症候群のiPS細胞の解析
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23659570
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吉川 武男 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, チームリーダー (30249958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前川 素子 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (50435731)
豊島 学 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (90582750)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 統合失調症 / iPS細胞 / 22q11.2欠失症候群 / 神経分化 |
Research Abstract |
本研究では、統合失調症を合併した22q11.2欠失症候群患者からiPS細胞を樹立し、神経系細胞への分化誘導や欠失遺伝子の導入による機能解析を行い、22q11.2欠失症候群における統合失調症発症機序解明および新規治療法開発の糸口を探ることを目的としている。平成23年度の研究では、2例の22q11.2欠失症候群患者(SA001、KO001)を対象として、ゲノム欠失範囲の解析、iPS細胞の樹立、神経系細胞への分化誘導を行った。欠失範囲の解析には、Flurescence in situ hybridization法とArray CGH法を用いた。SA001では22q11.2領域の2.5 Mbが欠損し、この欠損領域には56個の遺伝子が存在することがわかった。現在、同様の解析をKO001について行っている。疾患由来iPS細胞は、22q11.2欠失症候群患者(SA001、KO001)の線維芽細胞にOCT3/4, SOX2, KLF4, C-MYCをレトロウイルスにより導入することで作製した。遺伝子導入後、フィーダー細胞上で20日間培養しiPS細胞の形態を示すコロニーを複数単離した後、継代培養してセルライン化した。セルライン化したiPS細胞の中で、導入遺伝子がサイレンシングされ、未分化マーカー(Nanog、Tra-1-60)が発現し、神経幹細胞への分化効率が高いiPS細胞を選び出し、疾患由来iPS細胞とした。SA001は、統合失調症の発症に関わる因子として22q11.2領域の欠損の他に、GLO1遺伝子の変異を持っていた。GLO1遺伝子は、カルボニルストレスの除去に関わることが知られており、SA001のiPS細胞を用いて、カルボニルストレスに注目して解析を行った結果、カルボニルストレスが神経幹細胞の分化に関わっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、iPS細胞の樹立・解析対象とする22q11.2欠失症候群患者は1例(SA001)だけであったが、共同研究先の慶應義塾大学・岡野研究室の紹介により、2例目の22q11.2欠失症候群患者(KO001)を得ることができた。平成23年度の研究計画では、欠損領域・遺伝子の同定とiPS細胞の樹立を予定していたが、1例目のSA001では、欠損領域・遺伝子の同定とiPS細胞の樹立を共に達成しており、2例目のKO001でもiPS細胞の樹立について達成している。また、2人の22q11.2欠失症候群患者からiPS細胞を樹立できたことで、22q11.2欠失症候群に共通するデータを取れる可能性が出てきた。また前述のように、SA001が持つGLO1遺伝子の変異によるカルボニルストレスが神経幹細胞の分化に関わっていることを示唆するデータも得られた。以上のことから、当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) iPS細胞を用いた候補遺伝子のknockdown実験・過剰発現実験 各22q11.2欠失症候群患者(SA001、KO001)の欠失遺伝子群をリスト化し、精神症状発症に関係する可能性のある遺伝子に関して、種々の情報を調査し、解析のプライオリティーをつける。プライオリティーの高い遺伝子から順に(10遺伝子程度)、健常者由来iPS細胞を用いてknockdown実験を行い、神経系細胞(グリア細胞も含む)への分化に及ぼす影響を調べる。Knockdown実験で絞り込んだ遺伝子については、樹立した疾患由来iPS細胞に対して当該遺伝子を強制発現させ、神経系細胞分化が正常化するかを検討する。(2)神経幹細胞の分化におけるカルボニルストレスの影響 平成23年度の研究によって、GLO1遺伝子の変異を持つ22q11.2欠失症候群患者(SA001)のiPS細胞では、カルボニルストレスによって神経幹細胞への分化効率が低下することが示唆された。そこで、カルボニルストレスによって産生する終末糖化産物(ペントシジン)の量を測定し、SA001のiPS細胞が、他のiPS細胞(GLO1遺伝子の変異を持たない22q11.2欠失症候群患者(KO001)や健常者由来)と比べ、どの程度カルボニルストレスの影響があるのか解析する。更に、健常者由来iPS細胞を用いてGLO1遺伝子のknockdown実験を行い、神経幹細胞への分化に及ぼす影響や、SA001のiPS細胞に対してGLO1遺伝子を強制発現させ、神経幹細胞への分化が正常化するかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の大半は、細胞培養操作、分子生物学的実験操作、遺伝子発現解析に必要な試薬等の消耗品の購入にあてられる。特に、遺伝子導入用のウイルスベクターの作製やiPS細胞の培養、神経系細胞への分化に必要な試薬等を購入する。なお、本研究を滞りなく行うに足る消耗品以外の設備・装置等は確保しており、平成24年度の研究費では、高価な設備備品等は購入しない。 研究遂行上必要な、他機関の研究者との打ち合わせ、情報収集、成果発表のために、国内学会(日本人類遺伝学会、日本生物学的精神医学会等)および国際会議(北米神経科学学会等)への出席が必要なため、旅費として使用する。また、英語論文発表のために必要な英文校正料に使用する。
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