2011 Fiscal Year Research-status Report
脂肪酸代謝異常を出発点とする気分障害の病態解明と治療法の開発
Project/Area Number |
23659571
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research |
Principal Investigator |
楯林 義孝 (財)東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 副参事研究員 (80342814)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 気分障害 / 大うつ病 / 双極性障害 / 統合失調症 / 死後脳 / 脂肪酸 / オリゴデンドロサイト |
Research Abstract |
我々はスタンレー凍結死後脳を用いて、大うつ病(major depressive disorder:MDD)、双極性障害(bipolar disorder:BPD)、統合失調症(schizophrenia:SCH)の前頭極灰白質のオリゴデンドロサイト(OL)系譜の細胞数が減少している事を発見した(Hayashi et al. Mol Psychiatry, 2011, 16: 1155, Hayashi et al. Mol Psychiatry, 2011, 16: 1156-1158, Hayashi et al. PLoSOne, 7: e33019)。しかし、それが、どのような形でミエリン形成能に影響しているか、ほとんど解っていない。前頭極灰白質はヒト脳の中でも中年期までミエリン化が継続している。われわれは、スタンレー凍結死後脳の研究をさらに進め、全脂肪酸分画の解析を進めた。動物実験によって、死後の交絡因子によって全脂肪酸分画がどのような影響を受けるのか、細かく検討し、それらのデータを元に、ヒトデータを再解析した。その結果、MDD及びBPD特異的な脂肪酸の異常が、特に前頭極白質を中心に認められた。SCHでは全く正常であった。これらの結果は、前頭極で生じている成人期のミエリン化に気分障害(MDD、BPD)では何らかの質的異常が存在する事を示唆する。現在、成体脳より、簡易的、高純度で大量に分離培養したオリゴデンドロ前駆細胞サイト(OPC)を用いて、脂肪酸を標的に同様の異常を生じる機序解明を行なっている。現在、死後脳で認められた気分障害特異的な脂肪酸異常の結果については論文を投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在あるうつ病の薬物治療法はその大部分が神経伝達物質のセロトニンとノルアドレナリンを標的としており、当然、OL系譜細胞の微細な異常を標的としたものは存在しない。また、成人におけるOLやOL前駆細胞(aOPCs)の大部分の動態は未解明で、今後もさまざまな知見を積み重ねて行く必要がある。例えば、aOPCsと神経細胞はある種のシナプス様の構造を通じて情報伝達を行っていることなどが報告されているが、その機能は全く不明である。しかし、これらの最新知見は、さまざまな形でaOPCsが精神疾患病態に深く関与している可能性があることを示唆する。それらの研究を推進する目的で、成体ラット脳からaOPCsを高純度で安定的に、またより簡易的に分離培養する方法の確立に取り組んだ。 われわれは、ステップ密度勾配法を用い、成体ラット海馬より、以前はミエリン等のdebrisの集まりと考えられていた比重の軽い分画(Sup)に、aOPCsが大量に存在することを見出した。そして、aOPCsをグルタミン酸を含まない無血清培地を用いてFGF2刺激下で高純度で継代培養する方法を確立した。このaOPCs分画から得られた培養細胞は、aOPCsの細胞特性を保持したまま長期間in vitroで、かつ高純度(NG2陽性率90%以上、Olig2陽性率95%以上など)で無血清培養が可能である。さらに網羅的遺伝子発現解析を行なうとマウス脳でaOPC特異的に発現している遺伝子(Cahoy et al. 2008)がラット培養aOPCでもその特異性が保持されていた。現在、これらの細胞を用いて、さまざまな細胞障害系の脂肪酸分画に対する影響を検討中である。一部の刺激が、死後脳で認められた脂肪酸異常を、in vitroで再現する可能性があることが判明した。
|
Strategy for Future Research Activity |
in vitroの培養細胞を用いた系で、気分障害死後脳に特異的に認められた脂肪酸分画異常を再現出来る事が判明したので、今後は、これらの系を用いて、新規気分障害治療薬のin vitroスクリーニング系の立ち上げを目指す。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
それらのin vitroスクリーニング系の立ち上げに必要な、細胞培養の消耗品などに私用を予定しているが、金額が少ない事もあり、柔軟性をもって使用して行きたい。
|