2011 Fiscal Year Research-status Report
53BP1をターゲットとしたDNA損傷修復の可視化と癌治療戦略
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23659587
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
栗政 明弘 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80343276)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | DNA修復 / 細胞周期 / 抗がん剤 / 放射線 |
Research Abstract |
細胞に起きるDNA損傷とその修復過程は、細胞の癌化の過程で重要な役割を果たすとともに、PARP阻害剤を始めとする癌化学療法や放射線治療増感剤のターゲットになっている。我々は放射線損傷部位に集積する53BP1の性質を利用し、53BP1に変異を導入することで細胞内に安定で発現できる53BP1-GFP融合タンパク質を用いた、DNA損傷を検出するバイオセンサーを開発した。53BP1を用いて生きた細胞でのDNA損傷の挙動を観察することで、異なる細胞周期におけるDNA損傷と53BP1の挙動を明らかにし、HR修復を制御する53BP1をターゲットとする癌の化学療法・放射線治療増感剤の開発を試みる。 本年度は、細胞周期とDNA2本鎖切断損傷の生成・修復過程を可視化し、定量解析することを目標とした。緑色蛍光タンパク質GFPと融合した変異53BP1タンパク質と、赤色蛍光タンパク質DsRedと融合させたPCNAを共発現するU2OS細胞(U2RDP-53BP-21)において、生きたまま細胞周期をタイムラプス観察できる条件の検討と、DNA2本鎖切断損傷を検出するバイオセンサーが機能するかを検証した。 DNA損傷を引き起こす薬剤のうち、細胞周期に依存せずにDNA2本鎖切断損傷を引き起こすNeocarzinostatin(NCS)、および細胞周期の特にS期において特異的にDNA2本鎖切断損傷を引き起こすTopoisomeraseI阻害剤であるCamptothecin(CTP)を投与し、細胞周期依存的に生じたDNA損傷がどのような動態を呈し、修復されていくかを観察した。自然条件下で認められる細胞周期のプロファイルと比較するとともに、細胞周期の以降、細胞周期チェックポイントとDNA修復の関連性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞周期とDNA2本鎖切断損傷の生成・修復過程を可視化できるU2OS細胞(U2RDP-53BP-21)において、自然培養下で37時間にわたり150の時間ポイントを、各ポイントでz軸スライス7枚ずつ、計1050枚の顕微鏡タイムラプス撮影を行い、自動解析を進めた。その結果、自然培養下での個々の細胞がどのように細胞周期を移行しているかのプロファイル化に成功した。さらに、Neocarzinostatin(NCS)、およびCamptothecin(CTP)の二つの異なるDNA損傷誘導剤を用いて、細胞周期依存的なDNA損傷の誘発ならびに修復の動態を明らかにすることに成功した。予定していたBleomycine以外の実験はほぼ成功しており、おおむね順調に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
1)DNA2本鎖切断修復に関わるメジャーな2つの修復系路である非相同末端(NHEJ)修復と相同組換え(HR)修復の阻害剤を用いて、バイオセンサーで検出されるDNA損傷の動態がそのように変化するかを検討する。異なった細胞周期で生じているDNA損傷が、どちらの修復経路で修復が行われているかのバランスを調べることは、癌細胞における化学療法・放射線治療の効果、あるいは放射線感受性増感剤の効果を予測し、その修復のメカニズムを理解する上できわめて重要な知見となり得る。2)細胞周期チェックポイントに重要な働きを有するATMの阻害剤(KU-55933)を用いて、細胞周期チェックポイントを不活化させることにより、どのようにDNA修復の動態が変化するかを、53BP1センサータンパク質を用いて検討を行う。3)DNA損傷を検出するバイオセンサーを発現するトランスジェニックマウスの作出と維持継代を行う。変異53BP1-GFP融合タンパク質を発現するマウスを作製するため、CAGプロモーター下に変異53BP1-GFPを発現するベクターを構築し、受精卵前核細胞にマイクロインジェクションを行っている。現在、蛍光を発する1系統を含む全部で5系統のトランスジェニックF1マウスを得ている。今後、これらのマウスを継代・維持して、安定にトランスジーンを保持するマウスを作出するとともに、バイオセンサーが十分に観察できる条件を検討して行く。これにより、各組織にて異なるDNA損傷修復の過程を生きたまま観察できるシステムを構築する。また、高発がんマウスとこのマウスを掛け合わせることにより、発がん過程で重要なゲノム不安定性とDNA損傷の生成頻度を組織ごとに検討して行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が発生した事由は、研究補助員の雇用ができなかったことが要因である。これに関しては、翌年度より雇用を開始する予定である。 翌年度の必要な経費は、細胞培養関連試薬やガラスボトムディッシュなどの消耗品と研究補助員の雇用費用である。また、マウスの維持・管理の費用を計上している。その他に、研究成果を学会等で発表するための旅費、成果を論文として発表するための校正・印刷費も必要である。
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