2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23659594
|
Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
大西 武雄 奈良県立医科大学, 医学部, 特任教授 (60094554)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 放射線治療生物学 / 重粒子線 / 粒子線治療 / 細胞死シグナル / 生存シグナル / Akt |
Research Abstract |
がん細胞はがん化に伴う遺伝子変化などによって、生存シグナルの異常による細胞増殖の亢進や、細胞死シグナルの異常によるアポトーシス誘導の抑制が起こり、がん治療抵抗性になることが知られている。最近、高い殺細胞効果を示す重粒子線治療が大きく期待されている。重粒子線がもたらす生と死のシグナルの制御機構を遺伝子の転写、翻訳、翻訳後修飾を解析することは、重粒子線治療の有用性をさらに高めることができる。また、それらの遺伝子群を調節することで、重粒子線照射装置を用いなくても、多くのがん患者の治療効果の向上につなげることが可能と考えた。そこで、本研究では放射線が誘導する生存シグナル抑制のしくみを明らかにすることを目的として、Aktを中心とした生存シグナルの関連タンパク質の細胞内蓄積量およびAkt活性能の変動を解析した。等線量(2 Gy)のX線照射に比べて重粒子線である鉄線はAktの細胞内蓄積量およびリン酸化されたAktを効率的に抑制させる実験結果を得た。さらに、mTORおよびそのリン酸化されたmTOR、rpS6およびそのリン酸化されたrpS6、さらにsurvivinも効率的に抑制された。これらのことから、Nur77、BAD、Caspase-9などの細胞内シグナル伝達分子はこれらのアミノ酸配列を持ち、Aktキナーゼの生理的条件下でのリン酸化の基質とされている。これらの既知あるいは未だに解明されていない種々の標的分子を介してAktは細胞内の細胞死抑制の中心的役割を担っていることを考えると、これまで重粒子線がp53非依存的な細胞死をもたらすと考えてきたが、それは細胞死のプロセスを見ていたのであって、生存シグナルの抑制が重粒子線の細胞への真の作用であるのかもしれない実験結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでヒトの神経膠芽腫細胞、舌がん細胞、肺がん細胞、ヒト歯肉扁平上皮がん細胞の殺細胞効果は、X線に比べて重粒子線のLETに依存して高くなり、p53遺伝子型に影響されず、アポトーシスを高頻度に誘発することを報告してきた。その理由として、p53非依存的な細胞死がもたらされることはp53非依存性のアポトーシス誘導によるものであることを明らかにしてきた。それは高LET重粒子線誘導p53非依存的アポトーシスにおけるCaspase経路は、Caspase-8よりもCaspase-9を経由したCaspase-3が関与しているとしてきた。 等線量(2 Gy)のX線照射に比べて高LET重粒子線である鉄線は細胞の生存シグナル系の遺伝子産物Aktの細胞内含有量を減少せるとともに、活性化(リン酸化) Aktを効率的に抑制させるという実験結果を得た。さらに、その下流遺伝子産物であるmTORおよびそのリン酸化されたmTOR、rpS6およびそのリン酸化されたrpS6、さらにsurvivinも効率的に抑制することを今回発見した。Aktは細胞内の細胞死抑制の中心的役割を担っていることを考えると、これまで重粒子線がp53非依存的な細胞死をもたらすと考えてきたが、それは単に細胞死のプロセスを見ていたのであって、生存シグナルの抑制こそが重粒子線の細胞への真の作用であるのかもしれないという実験結果を得たことになる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今回、重粒子線がAktを中心とした生存シグナルの関連タンパク質の細胞内蓄積量およびAkt活性能が抑制されることを発見した。しかも、その下流遺伝子産物であるmTORおよびそのリン酸化されたmTOR、rpS6およびそのリン酸化されたrpS6、さらにsurvivinも効率的に抑制されていた。このことから、細胞周期停止をもたらす遺伝子群が活性化されていることも考えられる。今後の研究の進め方には、ぜひ重粒子線でX線よりも効率的にこの細胞周期がもたらされるかを、フローサイトメトリーを用いて、核内のDNA量の測定を行う。 さらに細胞周期に関わる遺伝子群の形質発現影響を、ウエスタンブロット法で分析する。コントロールとしてX照射された後のそれらの遺伝子の形質発現量とを比較検討する。このことはがん抑制遺伝子p53遺伝子型にかかわらず、がん細胞増殖が抑制されることとなり、重粒子線は高い殺細胞効果とともに悪性がんの増殖を抑えることにも貢献するかを調べる。このことも、多くのがん患者の治療効果の向上につなげることができると考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
重粒子線およびX線照射後に形質発現される細胞周期に関する遺伝子群の抗体、ウエスタンブロットに関係する試薬、電気泳動器具、転写に関わる消耗品費にあてる。さらに、フローサイトメトリーで測定する試薬類、機器の使用代、さらに細胞を培養するための試薬類を購入する。 研究成果を発表する国際学会での発表のための学会への交通、宿泊費にもあてる。さらに、論文作成費、外人による論文の校正費用、論文のリプリント代、文献調査費にもあてる。
|
Research Products
(32 results)