2012 Fiscal Year Research-status Report
癌細胞の細胞周期離脱・再進入を標的とした治療法開発のためのG0癌細胞モデルの作成
Project/Area Number |
23659616
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
片野 光男 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10145203)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 賢二 九州大学, 先端融合医療レドックスナビ研究拠点, 教授 (00315061)
大西 秀哉 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30553276)
|
Keywords | がん細胞 / 細胞周期 / 細胞周期離脱 / 細胞周期再進入 / 低酸素 / G0期 / Smo / Hedgehogシグナル |
Research Abstract |
臨床がん組織におけるがん細胞の多くは、G0あるいはG1期にあり、これが細胞周期依存性の従来の抗がん剤に対しがん細胞が低感受性であり抗腫瘍効果が得にくい原因の一つである。これを克服する治療法開発のために、G0細胞を樹立し、細胞周期からの離脱と再進入の機序を解析することが当初の目的である。23年度に引き続き24年度も、G0期細胞株の樹立は成功しなかったが、24年度は、本研究の最終目的である「がん細胞の細胞周期離脱・再進入を標的とした治療法開発」にヒントを与える以下のような知見を得た。 ①腫瘍局所の低酸素環境により膵がん細胞は、G0/G1期へ集積する傾向を示すが、Smoの活性化を通して細胞周期を維持しようとする。したがって、Smoの発現を抑制すると膵がん細胞はG0/G1期へ集束する(23年度からの継続実験:Cancer Science 2012)。②このSmo活性化による細胞周期維持はGli1発現経路を通らない(いわゆる古典的Hedgehog/Gli1シグナル系ではない)。③また、我々が本研究中に樹立した長期低酸素耐性膵がん株(2株)においては、Smoが活性化しており、Smo発現をノックダウンすることにより増殖能は低下し、G0/G1へ集積する。④一方、再酸素化するとSmoが高活性化し、細胞周期進行が加速され、親細胞株より増殖能が亢進する(投稿準備中)。 以上の結果より、腫瘍局所の低酸素環境にある腫瘍細胞はSmoの活性化を通して細胞周期を進行させており、Smoの活性化が誘導されなかった細胞はG0/G1期に入る可能性が示された。また、再酸素化がSmoの活性化を通してG0/G1期の癌細胞の細胞周期への再進入を誘導する可能性も示された。すなわち、Smoががん細胞の細胞周期離脱・再進入に関与している可能性が初めて示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画は、G0細胞を樹立し、細胞周期からの離脱と再進入の機序を解析することであり、23年度の成果を基に、PSやNotch遺伝子をノックダウンすることでG0細胞株の樹立を試み続けたが、細胞株樹立には成功しなかった。しかし、23年度に見出した低酸素環境下での細胞周期進行にHedgehogシグナル系、特に、Smoが関与しているという新知見をもとに、24年度は、長期低酸素耐性株を樹立し、Smoの関与をさらに支持する成果を得た。さらに、再酸素化により、Smoの発現上昇により細胞周期の進行が加速されることを確認した。すなわち、低酸素環境においては、Smoの発現低下により細胞周期進行が低下(G0/G1期への集積)し、再酸素化によりSmo発現上昇を通して細胞周期進行が亢進する可能性を見出した(投稿準備中)。この成果は、研究計画とはやや次元の異なるものだと言わざるを得ないが、本研究の最終目的である「がん細胞の細胞周期離脱・再進入を標的とした治療法開発」に結びつく新知見であり、この新知見の一部は免疫不全マウスへの膵がん細胞移植の系でも確認された。以上のように、最終目標に向かって研究は進行しているが、G0細胞株の樹立に成功していないという点で、やや遅れていると評価せざるを得ない。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述のように、G0細胞の樹立は非常に困難を極めている。しかし、①低酸素状態での細胞周期を進行させるためにHedgehogシグナル系が働いていることを示唆する新知見を得た。②さらに、本研究中に低酸素耐性膵がん細胞株(G0/G1優位)を2株樹立した。したがって、25年度は、当初の目的である「腫瘍局所のがん細胞がG0期へ入る機序およびG0からS期への再進入機序」を達成するために、われわれの樹立した低酸素耐性膵がん細胞株を標的細胞として、がん局所の低酸素環境におけるG0/G1期への進入、およびG0/G1期からの脱出機序をhedgehogシグナル系関連分子(特にSmo)に焦点を当てin vitro(細胞培養の系)およびin vivo(免疫不全マウス移植系および手術時摘出腫瘍組織)の系を用いて解析する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究実績に記載したように、目的とするG0細胞の樹立に難渋しているが、低酸素状態での細胞周期の制御にHedgehogシグナル系が関与している可能性を見出したので、低酸素耐性株の長期培養のための消耗品を購入する。
|
Research Products
(4 results)