2011 Fiscal Year Research-status Report
男性不妊症に硫酸化糖脂質が関与する:モデルマウスと人工膜を用いた分子機構の解明
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23659764
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Research Institution | Nihon Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
有冨 桂子 日本薬科大学, 薬学部, 准教授 (50142451)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久樹 晴美 帝京大学, 医学部, 助教 (00091059)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 不妊症 / 精子形成 / 硫酸化糖脂質 / リン脂質 |
Research Abstract |
少子化が進む日本において、不妊症対策は重要課題の1つであるが、その半数を占める男性不妊症は、精子形成メカニズムの複雑さから、未解明の部分が多い。研究代表者らは、哺乳類精巣に高濃度に発現している硫酸化糖脂質セミノリピドを欠損するマウスが、精子形成不全による男性不妊症を発症することを見出した。糖鎖や脂質の代謝に関わる遺伝子変異マウスは複数知られているが、それらの中で、本研究で使用するマウスに加えて、エーテル脂質や長鎖ガングリオシドなどの複合脂質欠損マウスにおいても、精子形成不全が報告されている。これらの結果は、精子形成における複合脂質の重要性を示唆する。23年度は、複合脂質の役割を解明するための基礎データとして、精子形成細胞脂質の詳細な分析を行った。1.マウスの飼育と試料の採取: 細胞周期がそろっている第一ウェーブの中で、精母細胞が分化するレプトテン期からパキテン期に注目し、CGTおよびCST遺伝子ノックアウトマウスへテロ接合体の交配により生まれた同胞のマウスを日齢ごとに集めた。Genotypeの分析により、野生型、ホモ接合体に分けて精巣を採取した。2.精子形成細胞の調製: 1で採取した精巣から精細管を分離し、初代培養法により、セルトリ細胞を含まない精子形成細胞を分取した。さらに、収率・再現性の向上を目指して検討している。3.脂質の分析: 2の方法で得られる精子形成細胞は微量であるため、少ない試料から収率よく抽出・精製するための条件、および詳細な情報を定量的に得るための分析方法を検討した。その結果、溶媒抽出により得られた総脂質画分をMALDI-TOFMSで分析することにより、10日齢前後のマウス精巣1個から、十分なイオン強度の分子関連イオンが得られ、MS/MSにより、脂質の分子種も含めた解析が可能であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で用いるCGTおよびCST遺伝子ノックアウトマウスホモ接合体は、生殖能力がないため、ヘテロ接合体の交配で維持しなければならない。また、同胞で得られるホモ接合体オスは1匹程度であり、かつ10日齢前後のマウスを用いる必要があることから、得られる精巣の重量は極めて少ない。精巣には精細胞に比べて大型のセルトリ細胞が存在する。精子形成における脂質の役割を検討するためには、精子形成細胞のみを分離する必要があるが、初代培養により得られる精子形成細胞は極めて微量である。従って、分析に供するための試料を準備するために、当初の計画に比べて、長期間を要した。 まず、精巣から精細管を分離し、初代培養法によりセルトリ細胞を除き、精子形成細胞を分取した。得られた精子形成細胞は極めて微量かつ貴重であることから、微量試料から詳細な情報を定量的に得るための抽出条件、および分析方法の検討を先ず行い、それらを確立するための期間も必要となった。野生型マウス精巣を用いて検討した結果、質量分析計を用いることにより、精巣1個から得られる精子形成細胞の総脂質画分を用いて、脂質の分子種も含めた分析が可能であることが判明した。今後も、精子細胞の採取に時間を要し、得られた細胞は極めて貴重であるため、現在、さらに効率的な分析・定量法の確立に向けて検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
哺乳類の糖脂質は、その大部分が脂質部分にスフィンゴシンをもつスフィンゴ糖脂質であるのに対して、本研究の主題である硫酸化糖脂質セミノリピドとその前駆体のみが、脂質部分にグリセロール骨格をもつグリセロ糖脂質である。一方、リン脂質については、その大部分がグリセロリン脂質であり、スフィンゴシンをもつのはスフィンゴミエリンのみである。興味深いことに、セミノリピドとその前駆体は、唯一、精細胞と精子にのみ高濃度に発現している。つまり、グリセロ糖脂質は、精巣にのみに高濃度で発現していることになる。なぜ、精巣だけはスフィンゴ糖脂質ではなくグリセロ糖脂質なのか、この謎を解くことは、精子形成における脂質の役割を解明し、脂質や関連分子を標的とする男性不妊症の治療法や治療薬開発の糸口になると考える。 この謎を解明するために、先ず、精子形成細胞の複合脂質の脂質部分に注目して詳細に分析する。グリセロリン脂質の脂肪酸分子種は、一般に長鎖不飽和脂肪酸の含有率が高いことが知られているが、精子形成細胞のみを分離してのリン脂質分析は今日まで報告されていない。一方、セミノリピドの脂肪酸分子種は、ほとんど全てが比較的短鎖の飽和脂肪酸であることが分かった。そこで、精巣糖脂質の90%を占めるセミノリピドの脂肪酸分子種が、精細胞のグリセロリン脂質やスフィンゴリン脂質の脂肪酸分子種にどのような影響を与えているかを先ず調べる。次に、ホモ接合体マウスでは、セミノリピドの欠失により、それらがどのように変化しているかを解析し、「なぜ、精巣だけはグリセロ糖脂質なのか」という命題の解明に繋げることを、24年度の目標とする。 また、セミノリピド欠損マウスにおける精子形成停止時期は、血液精巣関門(BTB)形成時期と一致するため、23年度に基礎的検討を行ったBTBの形態や機能についても、解析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように、ヘテロ接合体の交配によるホモ接合体の維持、精巣の採取、および脂質分析に供するための精子形成細胞試料を準備するために、当初の計画に比べて、かなりの期間を要したため、次年度に繰り越す研究費を生じた。 23年度は試料の準備がほぼ整い、分析条件の基礎的検討も終了したので、24年度は、本格的な分析を開始する。研究費は分析のための試薬、定量のための標準試料、質量分析用の試薬・カラム・消耗品などの購入に使用する予定である。また、BTB形態・機能解析のための抗体、組織染色用の試薬・器具などにも使用する予定である。
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Research Products
(2 results)