2012 Fiscal Year Research-status Report
男性不妊症に硫酸化糖脂質が関与する:モデルマウスと人工膜を用いた分子機構の解明
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23659764
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Research Institution | Nihon Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
有冨 桂子 日本薬科大学, 薬学部, 准教授 (50142451)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久樹 晴美 帝京大学, 医学部, 助教 (00091059)
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Keywords | 硫酸化糖脂質 / グリセロ脂質 / リン脂質 / 精子形成 / 質量分析 / 精細胞 / セルトリ細胞 / 遺伝子変異マウス |
Research Abstract |
少子化対策において不妊症は重要課題の1つであるが、その半数を占める男性不妊症は、精子形成メカニズムの複雑さから、未解明の部分が多い。研究代表者らは、硫酸化糖脂質セミノリピドを欠損するマウスが、精子形成不全による男性不妊症を発症することを見出した。脂質の代謝に関わる遺伝子変異マウスの中では、エーテル脂質欠損マウスや長鎖ガングリオシド欠損マウスにおいても、精子形成不全が報告され、精子形成における脂質の重要性が示唆される。 精巣には、精子へと分化する精細胞とセルトリ細胞が存在する。セルトリ細胞は精細胞の支持、栄養供給、血液精巣関門の形成、などの機能を有する。セミノリピドは精巣糖脂質の90%を占め、精細胞にのみ発現していることが知られている。この糖脂質の欠損が他の脂質に与える影響を調べるため、精細胞とセルトリ細胞を分離し、詳細な分析を行うこととした。 1.精細胞とセルトリ細胞の分離:野生型マウス精巣を用いて、各細胞を高純度かつ高収率で単離する方法を検討した。初代培養法では、培養初期には相互の混入がみとめられる一方で、培養期間の延長に伴い、細菌の混入や細胞の変異などの可能性が増加するという問題があるため、密度勾配法なども検討中である。 2.脂質分析:初代培養法により得た各細胞の総脂質を薄層クロマトグラフィーにより分析した結果、セルトリ細胞からもセミノリピドが検出された。セルトリ細胞は精細胞を取り込み、そのセミノリピドをリソゾームで処理することが報告されているが、培養数日後のセルトリ細胞からも検出されたため、時間経過による変化を分析する予定である。 得られる細胞数が少ないため、微量試料から詳細な構造情報を得るための分析方法を検討した。その結果、総脂質画分をMALDI-TOFMSで分析することにより、分子種も含めた情報が得られることが明らかになった。今後は定量に向けて検討を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
精巣には、精細胞に比べて大型のセルトリ細胞が存在する。それぞれの細胞は精子形成において固有の不可欠な役割をもち、相互に協力することで、正常な精子形成が進行する。精子形成における脂質の役割を検討するためには、精細胞とセルトリ細胞を分離し、それぞれについて分析する必要がある。高純度かつ高収率で単離する方法を検討、および実施に時間を要したが、先ず、初代培養による精細胞とセルトリ細胞の分離を試みた。 まず、精巣から精細管を分離し、初代培養法により精子形成細胞を分取した。セルトリ細はさらに培養を続けることにより、精細胞の混在をできる限り除いた。得られる細胞数は少ないため、微量試料から詳細な情報を定量的に得るための抽出条件、および分析方法の確立を目指して、検討を行った。その結果、精巣1個から得られる各細胞の総脂質画分を用いて、薄層クロマトグラフィーによる検出が可能であることが分かった。この方法により、精細胞のみならず、セルトリ細胞のからもセミノリピドが明らかに検出された。これは予想外の結果であり、培養の時間経過を追うなどの方法により、セミノリピドの由来を確認する必要がある。次に、質量分析計に供するため、大量に存在するトリアシルグリセロールやコレステロールなどを効率的に除き、リン脂質・糖脂質核文を得る方法をほぼ確立した。この試料を用いたMALDI-TOFMSにより、脂質の分子種も含めた分析が可能となったが、MALDI-TOF-MS装置の整備に予想維持用の時間を要した。さらに、ガスクロマトグラフィーによる分析や、定量法の確立に向けて検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
哺乳類の糖脂質は、その大部分が脂質部分にセラミドをもつスフィンゴ糖脂質であるのに対して、本研究の主題であるセミノリピドとその前駆体は、脂質部分にグリセロール骨格をもつグリセロ糖脂質である。一方、リン脂質についてはその大部分がグリセロリン脂質であり、セラミドをもつのはスフィンゴミエリンのみである。興味深いことに、セミノリピドとその前駆体は、唯一、精細胞と精子にのみ糖脂質の90%を占める高濃度で発現している。つまり、グリセロ糖脂質は、精巣のみに高濃度で発現していることになる。主要成分であるセミノリピドの欠損は精細胞の細胞膜の機能に著しい影響を与えることが予想され、他の脂質組成に代替的な変化が起きていることも予想される。この脂質組成の変化を分子種も含めて詳細に分析することは、「なぜ精巣だけはグリセロ糖脂質なのか」という命題の解明につながる。さらに、精子形成における脂質の役割を解明し、脂質や関連分子を標的とする男性不妊症の治療法や治療薬開発の糸口になると考える。 この命題を解明するために、精細胞とセルトリ細胞の糖脂質やリン脂質の脂質部分に注目して詳細に分析する。セミノリピドと同様にグリセロ脂質に分類されるグリセロリン脂質の脂肪酸分子種は、一般に長鎖不飽和脂肪酸の含有率が高いことが知られているが、精巣、特に精細胞とセルトリ細胞を分離しての分析は全く行われていない。一方、セミノリピドの脂肪酸分子種はほとんど全てが比較的短鎖の飽和脂肪酸であることが分かった。今後は精巣糖脂質の90%を占めるセミノリピドの脂肪酸分子種が、精細胞のグリセロリン脂質やスフィンゴリン脂質の脂肪酸分子種にどのような影響を与えているか、ホモ接合体マウスでは、セミノリピドの欠失により、それらがどのように変化しているかを解析し、上記命題の解明に繋げることを、今年度の目標とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
細胞培養・分離のための器具・試薬、脂質抽出・分析・質量分析のための器具・試薬、定量のための標準試料などの消耗品を購入する。また、ガスクロマトグラフィーおよびデータ処理のための部品、分析用のカラム・試薬を購入する予定である。
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Research Products
(1 results)