2011 Fiscal Year Research-status Report
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23659784
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Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
松岡 正明 東京医科大学, 医学部, 教授 (70222297)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 男性不妊 / ヒューマニン |
Research Abstract |
男性不妊症の一つのメカニズムは造精細胞死の過剰な亢進によるとされるが、その詳細な機序は解明されていない。申請者のグループは世界で最初にアルツハイマー病の神経細胞死を抑制する生理的因子ヒューマニン(HN)とHN作用をもつ新たな内在性因子EH等一連の分子を同定して、現在その生物学的性質を解析しつつある。この途上、HNの主たる産生部位が精巣であることから、HNの精巣に対する作用を検討し、その結果、1)精子の退行性変化と精子内のHNレベルに負の相関が存在することをならびに、2)HNはAD 神経細胞死に対するメカニズムと異なるメカニズムで造精細胞の細胞死を抑制して、精子形成に重要な役割を果たしていることを見いだした。本申請ではこの研究をさらに推進して、HNの造精細胞死に対する作用メカニズムを解明し、男性不妊に果たすHNの影響を明らかにする研究の一年目を行った。 本年度は以上の目的遂行のために、第一の研究項目として、海外の共同研究者が確立した方法に準じて、ラットおよびマウスを用いた、男性ホルモンのアンタゴニストの投与による造精細胞死のアッセイ系を確立する研究を行った。その第一段階として、エトポシド局所注射による睾丸造精細胞のアポトーシスをTUNULアッセイで検出する検討を行い、コントロールとして生理食塩水注射を投与した群と比較して有意にTUNEL陽性細胞が増加することを示した。現在、男性ホルモンのアンタゴニストによる同様な実験を行いつつある。第二の研究項目として、EHと名付けた分子が生体内ではHNと同じ作用を示し、かつ、中心的な役割を果たしているという我々の別の研究成果を考慮して、EHとHNを同時に検討することに方針変更し、この目的のために、EHのリコンビナント蛋白質を大量に作成するシステムを確立し、大量のリコンビナントEHを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
二つの理由で研究進捗が遅れた。 第一に、実験動物をラットからマウスに変更する必要が生じ、アッセイ系を確立させるために時間がかかったためである。米国の共同研究者は、数年前より、ラットを研究対象動物として、製薬企業より無償で手に入れた男性ホルモン阻害薬研究を用いて、研究を遂行してきた。今回の研究遂行にあたって、同社より現在では無償では入手できなくなっていたことが新たに判明し、同効薬をその都度購入して実験を行う必要が生じた。しかし、その同効薬を用いてラットで実験を行うと、大量の試薬を必要とするために研究資金は莫大となり、本研究資金ではまかない難いことが明らかとなった。その結果、実験動物をラットから約1/10小型のマウスに変更せざるをえなくなり、中心的な実験手技である、精巣への局所注射はラットと比較して、はるかに困難な手技となった。必然的に実験アッセイ系の正確さを検討する必要に迫られた。以上の結果、昨年度は、マウスを用いて再現性を持った実験を可能にするという、主にアッセイ系の確立研究を行う必要性が生じた。第二に、ヒューマニン様の作用を持つ別の内在因子EHが発見され、EHを同時並行で検討した方が正確な情報が得られることが明白となったためである。我々の別の研究における一連の検討により、EHの活性はヒューマニンよりはるかに強力であり、アルツハイマー病神経細胞死抑制においては、中心的な役割を果たしている可能性が高く、また、血液を介して睾丸造精細胞にも到達している可能性が高いため、本研究においても両者の活性を比較検討する方がより正確な情報が得られると判断される。この目的のため、昨年度はEHのリコンビナント蛋白質を作成する作業を追加遂行する必要性が生じた。その結果、昨年度はEHのリコンビナント蛋白質を作成する実験を追加する必要性が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度より、男性不妊症の一つのメカニズムとして、アルツハイマー病神経細胞死を抑制する生理的因子ヒューマニン(HN)シグナルの低下が関与するという作業仮説に基づいて、HNの造精細胞死に対する作用メカニズムの研究を遂行しつつある。 現在までの研究によりHNの受容体は2種類存在することが知られている。CNTFR/WSX-1/gp130という三量体受容体はアルツハイマー病神経細胞死抑制に中心的な役割を果たしている。また、その他のメカニズムとして、細胞内でHNはBaxに結合して細胞死を抑制するというメカニズムも想定されているが、現在まで、どちらが中心的に関与するかの解明は難航し、確実な知見は得られていない。 また、その後の研究により、我々はあらたにHNと類似した内在性因子としてEHと名付けた分子を発見した。EHは皮膚から分泌され、血中を循環して、中枢神経系に到達し、HN受容体を介して、アルツハイマー病神経細胞死を抑制する。EHの活性はHNよりはるかに強いため、アルツハイマー病神経細胞死に関しては、中心的な役割を果たしている可能性が高い(投稿中)。同様に、造精細胞死に対してもEHは影響を及ぼしている可能性がある。従って、今後の本プロジェクトにおいては、両者を比較検討していくことが突破口となる。なぜなら、EHにはHNの受容体のひとつと想定される細胞内Baxと結合してその活性を抑制する可能性は低いと考えられるため、両者リガンドの造精細胞死に対する作用の相違あるいは同一性によって、正確な責任受容体が推定されるからである。 そこで次年度は、まずHN/EHの造精細胞死に対する作用を検討し、その結果から、関与する受容体を推定し、その分子を同定する一連の実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度から確立したマウス造精細胞死アッセイシステムを駆使して、まず、EHとHNの造精細胞死に対する抑制効果を比較検証する。 もし両者の活性が乖離していた場合(すなわちHNのみで抑制効果がみられた場合)、受容体以下のシグナル伝達系の活性化をマーカーとして、三量体受容体を介する経路以外のHNシグナル経路の関与を解明する。具体的には、HNによる造精細胞死抑制作用の細胞内シグナル伝達経路の解明とこのシグナルが既知の3量体からなる受容体を介さないことを示し、次に、細胞内にとりこまれたHNがBax を介し得て作用するか否か検討する。補助的に、STAT3や各受容体サブユニットの発現を検討する。また、細胞外に加えたHNやその誘導体が細胞内に移行するか否かを免疫染色や免疫ブロット方法を駆使して確認する。細胞内取り込みに3つのサブユニット(CNTFR/WSX-1/gp130)が関係するか否か1-2)で述べた方法を用いて検討する。 もし、両者の活性が共通していた場合、3量体からなるHN受容体の種々のloss of function実験(それぞれのサブユニットの中和抗体やdominant-negative gp130の投与による)を中心として、一連の三量体受容体であることの確認実験を行う。
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