2011 Fiscal Year Research-status Report
高度侵襲下のインスリン抵抗性に関するIL-18の影響と雌雄差の検討
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23659852
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
小谷 穣治 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (80360270)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | IL-18 / 敗血症 / エンドトキシン / インスリン / 血糖値 / 性差 |
Research Abstract |
近年、高度侵襲下生じるインスリン抵抗性が、救急患者における血糖管理に関与することと、炎症性サイトカインであるIL-18血中濃度が、メタボリックシンドロームにおける循環器系疾患の発症率に関与することが明らかとなった。本研究は、高度侵襲下のインスリン抵抗性におけるIL-18の役割をマウス敗血症モデルにおいて検討するものであり、IL-18濃度の上昇はインスリン抵抗性を促進させると予測した。平成23年度はエンドトキシン血症モデルマウスを用いた検討を行った。 C57BL/6J(WT)及びIL-18 knock out (KO)マウスに40 mg/kgのエンドトキシンを腹腔内投与し、0, 15, 30, 60分後の血糖値を測定した。エンドトキシン投与後12時間後に犠死せしめ、血糖値、インスリン、コルチコステロン、サイトカイン(IL-6,TNF-α, IFN-γ, IL-10)濃度を測定した。また、肝臓と筋肉よりmRNAを抽出し、insulin receptor substrate-1 (IRS-1), IRS-2を測定した。LPS投与0時間では血糖値にWT, KOとも有意な差は見られなかったが、投与後15, 30, 60分後ではWTに比べてKOで血糖値が有意に高くなっていた(p<0.01)。12時間後にはWT、KOともに低血糖となり、有意差は見られなかった。IL-6, TNF-αはLPSで著増したが、KOで差は無く、IFN-γはKOで有意に低値であった。IL-10はKOで有意に高値であった。インスリン、コルチコステロン濃度は12時間では有意差は見られなかったが、肝臓のIRS-1 mRNAはKOマウスで有意に低値であった。これらの結果より、IL-18は侵襲早期の血糖値上昇を抑制し、さらに、インスリンシグナル経路にも関与する可能性が示唆された。現在雌マウスでも解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の検討により、IL-18は侵襲早期の血糖値上昇を抑制し、さらに、インスリンシグナル経路にも関与することが明らかとなった。当初の予想では、IL-18濃度が上昇するとインスリン抵抗性が惹起され、血糖値が上昇するのではと考えていたが、現段階ではむしろIL-18が血糖値上昇を抑制する可能性が明らかとなった。神戸大学との連携は十分に出来ており、IL-18ノックアウトマウスに関してはインスリンシグナルの解析など、予想以上の結果が得られたため、実験は非常に順調に進んでいる。IL-18に関する本研究のような成果は全く初めての報告であり、すでに論文化に向けて準備を進めている。 しかし、IL-18によるインスリン抵抗性への関与は血糖値だけでは明らかではないため、インスリン、グルカゴンなどホルモンの測定や、更に詳細なインスリンシグナル経路の検討が必要と考えている。また、好中球を中心とした検討では明らかな有意差は認められず、予定していた実験はほぼ終了しているものの、さらに詳細に検討し、特に、アポトーシスとインスリン抵抗性をつなぐ検討を平成24年度に重ねる必要があると考えたため、「おおむね順調に進行」にとどめた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の結果より、IL-18は血糖上昇を抑制するのではないかと考えられたが、エンドトキシン血症モデルでは投与後数時間しか高血糖を維持出来ないため、非常に短期間の血糖上昇を抑制することしか明らかに出来ていない。インスリン抵抗性による血糖上昇を詳細に検討するには、盲腸結紮穿刺モデルなど、別の敗血症モデルにより侵襲後一定期間高血糖状態を維持する必要があると考えられるため、これらの検討を追加することを考えている。しかし、一方で低血糖状態においてもC3Hマウスでは性差が存在する可能性が示唆されるデータを得ており、高血糖状態だけでなく、低血糖状態におけるIL-18の役割についても検討する予定である。また、肝臓や筋肉におけるインスリンシグナル遺伝子の解明をさらに詳細に行う必要もあると考えている。 基本的には平成23年度の実験計画に沿って平成24年度も実験を行う予定であるが、上記の様な検討を組み合わせる必要があると考えているため、(1)盲腸結紮穿刺モデルによる検討の追加、(2)低血糖状態におけるIL-18の役割の検討、(3)肝臓や筋肉におけるIRS下流シグナルの検討、を追加する予定である。 現在の予定では、(1)は現在用いているエンドトキシン血症モデルに追加して盲腸結紮穿刺モデルを行う。盲腸結紮穿刺モデルは動物倫理委員会の承認を得たのちに追加する。手技は既に確立している。(2)はエンドトキシン血症モデルを用い、投与後6時間以降で低血糖を呈した状態について、血糖値、インスリン値、サイトカイン値、アポトーシスなどの検討を行う。IL-18ノックアウトマウスを用い、IL-18の役割ついても検討する。(3)はエンドトキシン血症、盲腸結紮穿刺いずれについても行い、IRSの下流シグナルのmRNAや蛋白の解析を行うものとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は試薬類など、消耗品に研究費を使用し、実験は順調に進めることができた。一方で、学会などでデータを発表する機会を設けることができなかったため、平成24年度は追加実験に使用する試薬類などの消耗品に加え、積極的に国内外に結果を発表する機会を多く設けることを予定している。また、外国語論文を作成し、海外ジャーナルへの投稿を準備中であるため、外国語論文校正費用を計上する予定である。 必要となる試薬類は平成23年度とほぼ同じであり、プラスチック消耗品類、投与薬品類(麻酔、エンドトキシンなど)、及び実験に使用するリアルタイム関連試薬、フローサイトメータ関連試薬、抗体類などを予定している。機器類などの設備品は予定していない。 学会発表については検討中であるが、現在日本shock学会への参加を予定しており、救急医学会などでの発表も検討中である。外国語論文については、Shock、J Traumaなどへの投稿を検討中である。
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