2011 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子改変マウスを用いた自己免疫疾患発症における性差の解明
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23659879
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
山田 安希子 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (70452646)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 自己免疫疾患 / 性差 / エストロジェン / アロマターゼ / シェーグレン症候群 |
Research Abstract |
本研究では骨髄レベルから末梢リンパ組織に至る免疫細胞の分化成熟過程で、エストロジェンを中心とした性ホルモンの作用点あるいは作用機序を解明するとともに、様々な免疫細胞が性ホルモンによってどのような制御を受けているのかを明らかにすることによって、自己免疫疾患の発症機序との関連を理解することを目指す。 具体的には、アンドロジェンからエストロジェンへの変換酵素であるアロマターゼの遺伝子欠損マウスを用いることによって、個体発生時からのエストロジェン欠損状態の観察が可能となる。加えて、アロマターゼ遺伝子欠損マウス(ArKO)はシェーグレン症候群様の自己免疫疾患が自然発症することがすでに報告されている (Proc Natl Acad Sci USA, 101:, 2004)。 申請者らは別ラインであるArKOマウスに関して、病態解析を行ったところ、12ヶ月齢を経過した時点で唾液腺、涙腺に限局した炎症性病変を確認した。免疫組織学的染色の結果、局所に浸潤している細胞の大部分がCD4陽性T細胞であることが示された。また、ArKOマウスの唾液腺では、炎症性サイトカインであるIFN-γのmRNA発現が有意に高いことが示された。これらのことから、CD4陽性T細胞が産生するIFN-γが炎症を誘起していることが示唆される。一方、頸部リンパ節における免疫細胞分画について解析を行った結果、ArKOマウスでは樹状細胞およびマクロファージの割合が顕著に増加していることが明らかになった。したがって、性ホルモンを欠損した場合には、CD4陽性T細胞に加え、樹状細胞およびマクロファージが炎症の誘起あるいは増悪に大きく関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下の3点に絞った研究を進めることを計画している。(1)性ホルモン関連遺伝子欠損マウスなどの骨髄、胸腺、末梢リンパ組織における免疫細胞(T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージなど)の性質、機能を詳細に検討する。(2)各種性ホルモン関連遺伝子欠損マウスの標的臓器での免疫関連分子の動態を検討する。さらに、(3)自己免疫疾患発症の性差の分子メカニズムを解明する。 本年度は、(1)について解析を行った結果、性ホルモンを欠損した場合に観察される炎症において、樹状細胞およびマクロファージの関連を示唆する結果が得られた。今後は主にこれらの免疫細胞に焦点をあてた解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
1)エストロジェン及びアンドロジェンレセプター遺伝子欠損マウスを用いた免疫反応の解析:本年度のArKOマウスで得られた知見に基づいて、性ホルモンレセプターの全身あるいはコンディショナルノックアウトマウスの免疫システムまたは標的臓器の変化に関して表現型、機能解析などを解析するとともに、細胞レベルでのシグナル伝達機構を解明する予定である。2)シェーグレン症候群、関節リウマチなど自己免疫疾患モデルにおける性ホルモン及び関連因子を介した病態機序解析:実際の疾患モデルにおける性ホルモン、または、関連因子の動態について、自己免疫疾患の発症とどのようにリンクしているのかを多角的に検討する。具体的には、疾患モデルにおける性ホルモンの役割を明らかにするために、疾患モデルの卵巣摘出あるいは性ホルモン投与による病態の変化を解析し、さらに、疾患モデルとArKOマウスなどの交配によって生体内での性ホルモンと自己免疫疾患との関係を病理学的、免疫学的手法にて解析を進める予定である。3)臨床応用への可能性を探る:動物モデルで得られた新知見が、実際の患者の病態形成において共通しているか否かについて、サンプル(組織標本、末梢血など)を用い、慎重に検討を重ねる。すでに、徳島大学病院耳鼻咽喉科、口腔内科との臨床サンプルを用いた共同研究の実績があり(Plos One, 2010、J Exp Med., 2008、Am J Pathol., 2005)、本研究を含めた自己免疫疾患の発症機序の解明に関して学内の倫理委員会の承認を得ている。性ホルモンを介した自己免疫疾患の診断あるいは治療法の開発を目指したトランスレーショナルリサーチを展開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越額はわずかなので次年度に合わせて使用する。 申請研究費は、疾患モデル動物の維持管理として、滅菌資料、床敷、ケージ、給水瓶などの消耗品や、シグナル伝達機構を詳細に解析するためのin vivoあるいはin vitro関連の試薬や、病態解析に必要な試薬などの購入に使用する。また、研究成果の論文投稿料なども研究費に計上する。
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