2011 Fiscal Year Research-status Report
要介護高齢者の誤嚥予防に関する基礎的研究ー食事援助中の粥の経時的粘度変化の検討ー
Project/Area Number |
23660005
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
加藤 圭子 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (90224500)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 粥 / 粘度 / 温度 / 増粘剤 / 唾液アミラーゼ |
Research Abstract |
要介護高齢者に対する誤嚥予防の看護は、高齢者の誤嚥性肺炎を予防する上で極めて重要である。誤嚥を防ぐ嚥下食の条件は粘度(とろみ)を有する等である。わが国では高齢者は米飯を好み、要介護高齢者には増粘剤(とろみパウダー)を加えた粥食が提供されている。この食事援助中、はじめは温かく適切な粘度のある粥が経時的に粘度を低下させ、誤嚥の危険性が高まる場合が多い。そこで、本研究では、食事援助中の粥食の粘度低下を防ぐ方法を検討することを目的とし、初年度は食事援助中の粥の粘度変化や温度変化など、粥の基本的な性質と唾液アミラーゼとの関連を究明することを目的とした実験を実施した。 要介護高齢者への(1)食事援助中の粥の粘度と温度の経時的変化を明らかにするために、30分間の粥食の摂取を想定し、被験者より採取した唾液を15回にわけて粥に添加し、粥の粘度と温度の経時的変化を測定し、両者の関連を分析した。粥の粘度と温度の測定は開始時(0分)、中間時(16分)、終了時(30分)の3回測定である。(2)粥の粘度変化と唾液アミラーゼ活性との関連を明らかにするために、唾液アミラーゼ活性を測定し、(1)との関連を分析した。また、唾液アミラーゼを煮沸して失活させた唾液についても同様に分析を行った。(3)粥の粘度変化と増粘剤の有無との関連を明らかにするために、(1)について、増粘剤の添加あり‐なし の2群比較を行った。(4)さらに、粥の粘度低下の要因が、唾液アミラーゼの関与だけであるのか否かを、粉末ヒトα‐アミラーゼを使用して分析した。(5)唾液アミラーゼの至適温度と粘度低下の関係を測定回数を増やして分析した。(6)上記の(1)と(3)について、主観的なおいしさの経時的変化を測定し、点数化して比較した。 以上の実験おける被験者の対象は、若年女性10名であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、基本的な粥の特徴を把握するため、予備実験として被験者の唾液を滴下しない場合の、粥の粘度と温度の経時的変化を測定した。さらに、増粘剤を加えて同様に実験を行った。また、食事援助を想定しているため、援助用スプーンに付着する唾液量を調べた。 以上を踏まえ、30分間の粥の食事援助を想定した本実験を行った。(1)食事援助中の粥の粘度と温度の経時的変化を明らかにするため、被験者10人より採取した唾液を15回に分けて2分間隔で粥に滴下した結果、多くの被験者で粥の粘度は最終的に低下した。粥の温度は開始時から徐々に低下し、終了時には室温近くにまで低下した。(2)粥の粘度変化と唾液アミラーゼ活性との関連を明らかにするために、被験者の唾液アミラーゼ活性を測定し、活性値と(1)の結果との関係を検討したが、関連は不明瞭であった。(3)粥の粘度変化と増粘剤の有無との関連を明らかにするために、増粘剤の添加あり・なしの2群比較したところ、増粘剤ありの方が粘度が高かったが、最終的には両者とも粘度が低下した。(4)粥の粘度低下の要因が唾液アミラーゼの関与だけであるのか否かを明らかにするために、被験者の唾液の代わりにヒトα‐アミラーゼを添加したところ、被験者の唾液を使用したものと同様の傾向を示した。(5)唾液アミラーゼの至適温度と粘度低下の関係を明らかにするために、粥の粘度と温度の測定回数を増やしたところ、50℃を下回った時点から徐々に粘度の低下が始まった。(6)主観的なおいしさの経時的変化について点数化したところ、時間の経過とともにおいしさの評価が下がった。また、増粘剤を加えた粥の方が加えていない粥よりも評価が高かった。
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Strategy for Future Research Activity |
要介護高齢者を対象とした30分間の食事援助を想定した粥の粘度と温度の経時的変化、増粘剤添加の有無による粥の粘度等の変化の相違、唾液アミラーゼと粥の粘度との関係等、食事援助中の基本的な粥の変化の特徴は、平成23年度に把握することができた。しかし、増粘剤を加えても粥の粘度低下は避けられず、増粘剤を加えていないものとの結果に有意差が無かった。これはおいしさの主観データでも同様の傾向を示した。このため、次年度は増粘剤の量を増やし、増粘剤が多い-少ない-ない の3群比較で検討する必要がある。また、別の新しい増粘剤に着目することも視野に入れて検討を行う。 さらに、粥の粘度の低下は、粥の温度が50℃を下回った時点から始まっているという知見を検証するために、被験者を対象とした測定回数は3回では少なく、次年度は測定回数を可能な限り増やし、粥の粘度と温度の変化を測定し、唾液アミラーゼ活性の至適温度との関連を分析する。また通常、粥には食塩等の添加や梅干しと共に食する習慣が日本にはある。よって、これらによる影響も検討を行う。 そして、2年間の実験結果を踏まえ、要介護高齢者の誤嚥予防のために、食事援助中の粥食の粘度低下を防ぐ方法とおいしさを保つ方法を検討する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
*設備備品;音叉型振動式粘度計 SV-A(A&D)500,000円、低温恒温水槽NCB-1200(東京理化器械)250,000円 計750,000円*消耗品費;唾液アミラーゼモニターチップ2セット10,000円、レトルト粥200個30,000円、増粘剤5箱5,000円、粘度計校正標準品2箱60,000円、アミラーゼ活性測定外部依頼10検体5,000円 計110,000円*旅行・人件費;学会参加 170,000円、研究補助(内訳 4人×3月×30,000円)120,000円、研究協力(内訳 被験者10人×5,000円)50,000円 *合計 1200,000円
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