2012 Fiscal Year Research-status Report
可視化に向けた看護技術の暗黙知データの定量的特徴抽出
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23660015
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
真嶋 由貴恵 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70285360)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前川 泰子 大阪府立大学, 現代システム科学域, 准教授 (60353033)
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Keywords | 看護技術 / 暗黙知 / 形式知 / 学習支援システム / スキル分析 / 脳波 / 生体データ |
Research Abstract |
看護技術における「熟練の技(わざ)」や「コツ」はその「暗黙性」ゆえに伝承しにくい.これまで先行研究では暗黙知を形式知化する方法として看護師と初学者の看護技術実施時の視線の動きに着目し,その違いを明らかにしてきた.本研究では,採血実施時の脳波等の生体データに注目し,看護師と初学者の緊張・集中状態の変化の違いなど,その特徴を分析することを目的としている. 初年度に対象者に対して点滴・採血トレーナー(ADAM ROUILLY社)を用いて採血を実施させ,その際の脳波(前頭前野)を脳波計Brain Pro(FM-929)(セルシネ・エイム研究所)を使用して測定した.本年度は,得られたデータの分析を行った. 脳波は得られた周波数によって,δ波,θ波,α波,β波の4つに分けられ,それぞれに脳の活動の特徴が意味づけられている.今回,緊張を示す指標としてβ/α値を,安静を示す指標としてθ/α値を用い,看護師と初学者それぞれの採血技術実施中のβ/αとθ/αの比較をおこなった.その結果,看護師は実施中θ/α値が優位で落ち着いた状態でいるのに対し,初学者はβ/α値が高く緊張状態が続くものや,実施中にβ/αとθ/αの大小が逆転し緊張と安静の優位が変化するものも見られた.心拍数については,測定時のノイズの影響か,今回は脳波との相関を認めることができなかった.手指動作データについては装着に時間を要すこと,干渉によるデータの揺らぎを回避することが困難であったことから,まずは脳波データと心拍データを対象として看護技術の暗黙知を統合して可視化(形式知化)する方法とそれらデータを一元管理して表示するシステムを用いて,時間計測を加えるなどの学習支援方法を検討した.今後はこのシステム上で看護技術実施時の生体データから看護師と初学者の違いや初学者が習熟するまでの過程を分析し,看護実践知の特徴を明らかにしていく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
看護技術における特徴を多様な生体データとして定量的に収集し,そのデータファイルを一元表示できるシステムを開発し,学習支援システムとしても活用できることを明らかにした. 実験で取得した脳波データを看護師と学生で比較した結果,看護師は実施中θ/α値が優位で,落ち着いた状態でいるのに対し,初学者はβ/α値が高く緊張状態が続くものや,実施中にβ/αとθ/αの大小が逆転し緊張と安静の優位が変化するものも見られ,安定状態に差があることが明らかになった.この結果の一部は医療情報学会で発表した. また,採血実施過程で時間制限を課したグループとそうでないグループでの脳波に差がみられ,緊張状態で実施している初学者に対して,実施に時間制限を持たせると,脳波上,緊張よりも集中が高まる傾向がみられた.これより,緊張の高いスキルに対する学習方法において配慮すべき内容が示唆された. 以上の結果より,看護技術の暗黙知を形式知化する方法として脳波等の生体データに注目し,看護師と初学者の緊張・集中状態の変化の違いなど,その特徴を抽出することができた.さらに,時間制限を課すという学習方法が有効であり,学習支援システムとして実装するうえでの機能要件を導くことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,看護技術実施者(看護師)の脳波等のデータしか測定,分析していない.次のステップとして,看護技術における「熟練の技(わざ)」や「コツ」などの「暗黙知」を体得するために,看護師と患者の生体リズム(脳波と心電図)の同調情報(引き込み現象※)を活用して,看護技術の「暗黙知」の修得を支援できる教育システムの開発を目的として研究を進めていく予定である. (※引き込み現象:生体リズムが相互に時系列的関係を成立させて同期する現象)
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
データ分析の結果,得られた知見「採血実施過程で時間制限を課したグループとそうでないグループでの脳波に差がみられ,緊張状態で実施している初学者に対して,実施に時間制限を持たせると,脳波上,緊張よりも集中が高まる傾向がみられた.これより,緊張の高いスキルに対する学習方法において配慮すべき内容が示唆された.」を,6月の国際会議で発表して意見交換する予定である.
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