2012 Fiscal Year Research-status Report
終末期医療で看護師が体験する困難 ―患者の自己決定を支えるためのケアをめざして―
Project/Area Number |
23660045
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Research Institution | Shukutoku University |
Principal Investigator |
松岡 秀明 淑徳大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (80364892)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 光穂 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (40211718)
岩崎 紀久子 淑徳大学, 看護栄養学部, 教授 (80332930)
渡部 真奈美 豊橋創造大学, 保健医療学部, 教授 (50341780)
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Keywords | 終末期医療 / 看護師 / 困難 / 患者の自己決定 |
Research Abstract |
終末期医療をになう緩和ケア病棟では看護師が重要な位置を占めており、実質的に病棟を運営している場合も少なくない。看護師たちは日々さまざまな困難に直面しつつ、患者のケアを行なっている。そして、こうした困難のなかには、患者の自己決定権とかかわっているものも少なくない。研究代表者の松岡はフィールドワークを行なう過程で、これらの困難が重要な研究課題であるという認識を得た。しかし、このような視点からの研究は、これまであまり行なわれていない。 本研究の目的は、以下の3点を明らかにすることである。 1. 緩和ケア病棟で看護師はどのような困難と直面しているのか、2. 彼らがそれら困難をどのように解決していくプロセス、3. それら困難は、緩和ケア病棟における患者の自己決定権とどのように関係しているのか。 研究分担者の岩崎と渡部は調査が十全に遂行できず、平成24年度は研究分担者となることを辞退した。このことは残念なことであるが、緩和ケア病棟でフィールドワークを行なうことの難しさを明らかにしたと考えられる。一方、研究代表者の松岡は順調にフィールドワークを行ない、緩和ケア病棟において患者の自己決定を支えるためのケアをめざした看護師たちの創意工夫を明らかにしている。研究成果を多くの学会で発表するとともに、「生、死、ブリコラージュ―緩和ケアで看護師たちが直面する困難への医療人類学からのアプローチ」を安藤泰至・高橋都編、『シリーズ生命倫理 第4巻 終末期医療』(東京:丸善出版、2012年12月刊)に執筆した。日本で高齢者の人口比率は増加しており、今後医師のみならず看護師が苦痛の緩和に立ち会う機会は否応なしに増加していくと考えられる。その際に、緩和ケア病棟において看護師がどのような困難に遭遇し、それをどのように解決しているのかを検討する本研究は参考となることを確信している。 ,
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者である松岡は国立病院機構東京病院(東京都清瀬市)において、学期間中は週1回程度、夏季休暇期間中は週3~4回程度、参加観察とインタビューを中心としたフィールドワークを行なった。そこで得られたデータを分析し考察を加え、平成23年度には、第45回日本文化人類学会研究大会(6月)、第17回日本臨床死生学会学術大会(11月)、平成24年度には、第38回日本保健医療社会学会大会(5月)、第46回日本文化人類学会研究大会(6月)、第18回第17回日本臨床死生学会大会(11月)で口頭発表を行なった。また、平成23年度のアメリカ人類学会(於モントリオール、11月)においては、現代社会におけるホスピスや緩和ケア病棟における死にかんする発表を聞き、発表者たちと意見を交換することができた。そして『シリーズ生命理学第4巻 終末期医療』の第12章として「死、生、死、ブリコラージュ:緩和ケア病棟で看護師が経験する困難への医療人類学からのアプローチ」(東京:丸善出版、2012年12月刊)を執筆した。 平成23年度において、渡部は、勤務先である藤田保健衛生大学の第一教育病院(愛知県豊明市)緩和ケア病棟藤田保健衛生大学の緩和ケア病棟で、岩崎は、勤務先の淑徳大学看護学部の学生実習の受け入れ先でもある聖隷佐倉市民病院でフィールドワークを行なったが、困難をきわめ研究成果を出せないまま平成24年度には分担研究員を辞退した。このため、平成24年度は松岡がフィールドワークを行ない、研究成果を池田と討論するという方法で研究を行ない、上述のような成果を得ることができた。以上を勘案して、分担研究者2名が辞したとはいえ、本研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
松岡が平成24年12月から平成25年3月にかけて病気となり、12月に2週間、1月下旬から3月末まで勤務先を休職し治療を受けた。このため、フィールドワークを行なうことができず研究を遂行することができなかった。平成25年3月には病気が完治し平成25年度には研究に復帰できる見込みがたつととともに、科研費で未使用分があったため、科研費延長承認申請を行ない承認された。現在はこれまでどおり国立病院機構東京病院でフィールドワークを続けており、これまでの研究をまとめることである。その結果を踏まえて、分担研究員として参画している川崎医療福祉大学の飯田淳子准教授が代表を務める研究「緩和ケアの感覚的経験に関する人類学的研究」(研究課題番号:24520930)で、終末期医療における患者と医療従事者との間の相互関係を微細に検証していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
松岡は、書籍代、学会への交通費、音声データ活字化作業にかかる代金に研究費を使用する。池田は予定通り平成24年度の費用を執行しているので、次年度の研究費はない。
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