2011 Fiscal Year Research-status Report
認知症状出現前の早期脳内変化を捉えるための近赤外線分光法による検査システムの開発
Project/Area Number |
23660125
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Research Institution | Fukuoka College of Health Sciences |
Principal Investigator |
大倉 義文 福岡医療短期大学, 保健福祉学科, 教授 (80352293)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
力丸 哲也 福岡医療短期大学, 歯科衛生学科, 准教授 (10299589)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 認知機能 / 脳内変化 / 近赤外線分光法 |
Research Abstract |
近赤外線分光法(NIRS)を用い、認知症状出現前の早期脳内変化を捉えるための非学習系課題候補の同定のため、おもに若年健常者と壮年健常者における前頭前野の血流変化パターンの解析を実施し、以下の新たな知見を得ることができた。 1)口腔内ブラッシング刺激:本研究課題開始当初には、三叉神経領域である口腔内のブラッシング刺激は、有意な血流増加が得られる非学習系課題の候補であると予想していたが、positive controlとしての学習系課題と比較すると、その血流増加は有意に小さく、本研究課題である認知機能変化を捉える早期脳内変化の解析には活用が困難であることがわかった。2)光関連刺激:視覚関連刺激により、positive controlとしての学習系課題と同等の前頭前野の有意な血流変化が得られることを新たに見出した。3)ミント系の嗅覚刺激と味覚刺激:嗅覚刺激では刺激開始直後から血流増加を認め、開始60秒後のピークはやや低いもののその効果は持続し、一方、味覚刺激では刺激30秒後から増加し、刺激開始から90秒後に最大になることを新たな知見として得た。さらに、それらの血流増加に伴い、学習作業効率が有意に増加することが認められた。4)口腔内と頬部の寒冷刺激:口腔内と頬部の寒冷刺激により刺激開始30秒後から血流の漸増を認め、刺激開始から90秒後に最大となる血流パターンを認めた。上記の非学習系課題が有する特徴的な前頭前野の血流増加効果は、本研究課題である認知機能変化を反映する早期脳内変化を捉えるための検査プロトコールの中で活用することができる。 さらに、第34回日本神経科学大会(平成23年9月パシフィコ横浜:横浜)と「精神疾患の脳画像研究チュートリアル」(平成24年1月東京大学医学部附属病院:東京)へ参加することにより、脳認知科学に関する新たな知見と研究アイデアを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的である認知症状出現前の早期脳内変化を捉える検査システムの開発において、有意な脳内活動変化を引き起こす非学習系課題候補の同定と解析は、本萌芽研究推進のための大切なステップである。 まず、脳活動レベルが低い安静時の状態では認知機能の解析は困難であり、なんらかの課題候補を用いた脳内活動変化の解析が必要となる。次に、学習系課題を用いる解析システムでは、1)認知症状出現前には学習機能そのものが比較的保たれているため、学習系課題に伴う脳内活動も保たれていることが予想され、認知症状出現前に変化を捉える検査には適していないこと、2)学習系課題の場合、その課題ができない(できなくなってしまった)被験者の尊厳やプライド保持の面で問題が生じることが憂慮される。 当該年度に実施した研究において、有意な脳内活動変化を引き起こす非学習系課題の候補を同定することができ、かつ、それらの非学習系課題による脳内活動変化に伴い学習効率が有意に増加することを見出したことは、萌芽研究としての大きな研究成果の一つと自己評価している。これらの有意な血流増加を引き起こす非学習系課題は、平成24年度以降に計画している認知機能変化を反映する早期脳内変化を捉えるための検査プロトコールの作成の際に、『認知症パラメーター』の候補として活用することができる。さらに、上記の非学習系課題による前頭前野の血流増加作用は、positive controlとしての学習系課題と同程度の有意な血流変化であり、非学習系課題を用いた認知機能保持のための新たな脳機能リハビリテーション法の開発にもつながる可能性を秘めているものと強く期待している。さらに、これらの新たな知見について、平成24年度に本研究課題の研究成果の一部として学術論文にまとめる準備を進めており、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究成果として得られた、有意な脳内活動変化を引き起こす非学習系課題候補(光関連刺激、ミント系の嗅覚刺激と味覚刺激、口腔内と頬部の寒冷刺激)による血流変化パターンと学習系課題による血流変化パターンとの比較解析について、高齢者群においても実施する予定である。まずは、パイロットスタディとしての少人数の高齢者において検討するための準備を進める。 上記のパイロットスタディの中で、若年健常者や壮年健常者における前頭前野の血流変化パターンとの比較解析を実施することで、高齢者群における認知機能変化を反映する早期脳内変化としての評価に活用できるか否かを検討してゆく予定である。さらに、早期脳内変化を捉える検査プロトコールに活用できる見通しが立った場合には、アルツハイマー型認知症の危険因子である(1)Apolipoprotein Eの遺伝的素因と(2)血中アミロイドβ42値を測定することで、高齢者群を高リスク群と低リスク群の2群に分類することで、非学習系課題候補による血流変化パターンと高齢者の認知症リスクとの関連についての解析を進めていきたい。 また、これまで得られた新たな知見について、平成24年度に本研究課題の研究成果の一部として学術論文にまとめる準備を積極的に進めるとともに、第35回日本神経科学大会(平成24年9月開催予定 名古屋国際会議場:名古屋)等の学会学術集会へ積極的に参加することにより、脳認知科学に関する新たな知見と研究アイデアを得ることに尽力したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の研究成果として得られた、非学習系課題候補(光関連刺激、ミント系の嗅覚刺激と味覚刺激、口腔内と頬部の寒冷刺激など)による血流変化パターンと学習系課題による血流変化パターンとの比較解析を継続実施する予定である。 さらに、高齢者群における認知機能変化を反映する早期脳内変化を捉える検査プロトコールの確立のために、Apolipoprotein Eの遺伝子多型(ε遺伝子多型)や血中アミロイドβ42測定などのアルツハイマー型認知症の危険因子を定量評価することにより、非学習系課題候補による血流変化パターンと高齢者の認知症リスクとの関連についてのさらなる解析を進めていきたい。 これまで得られた新たな知見について、研究成果の一部として学術論文にまとめる準備を積極的に進める予定である。さらに、第35回日本神経科学大会(平成24年9月開催予定 名古屋国際会議場:名古屋)等の学会への参加や脳認知科学関連の書籍や論文等から得られる学術情報を、脳認知科学に関する新たな知見と研究アイデアを得るために積極的に活用し、本課題研究の推進につなげたい。
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