2011 Fiscal Year Annual Research Report
湖表水層に出現するメタン極大層の形成パターンと好気的生成機構の解明
Project/Area Number |
23681003
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
岩田 智也 山梨大学, 大学院・医学工学総合研究部, 准教授 (50362075)
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Keywords | メタン / 湖沼 / 好気的メタン生成 / シアノバクテリア / 温室効果気体 / 有機リン代謝 / プランクトン / 湖盆形状 |
Research Abstract |
平成23年度は、「湖沼表水層に出現する謎のメタン極大層の探索と形成パターンの解明」を目的として多地点調査を行った。調査は山梨県,長野県および神奈川県の計14湖沼で行った。各湖沼では、鉛直方向に溶存メタン濃度、栄養塩濃度、植物プランクトン現存量(クロロフィルa濃度とピコシアノバクテリアの細胞密度)および動物プランクトンの現存量を推定した。 解析の結果、14湖沼中10湖沼で水柱の好気環境にメタン極大が形成されることを確認した。この極大層のメタン濃度は大気平衡濃度を遥かに上回っており、現場におけるメタン生成により形成されていると考えられた。そこで統計モデルにより解析したところ、面積が広く水深が深い湖でメタン極大が出現しやすいことを明らかにした。また透明度が高く、リン濃度が低い湖沼でもメタン極大が形成されやすかった。このことは、湖沼の栄養状態が好気的メタン生成に関与していることを示唆している。さらに、メタン極大層は亜表層に多く出現し、そこでは溶存酸素濃度が高く無機リン濃度が低かった。また、ピコシアノバクテリアの細胞密度もメタン極大層で高かった。このパターンは、外洋表層で発見された好気的メタン生成機構によく合致している。すなわち、光合成活性の上昇に伴い無機リンが枯渇すると微生物は代替として有機態リンを代謝し、分解産物としてメタンが生成する。湖沼においても同様のリン代謝が駆動し、メタン極大の形成に寄与していると考えられた。 本研究により、多くの湖沼において好気環境にメタン極大が出現し、とくに深くて貧栄養な湖ほど出現しやすいことを明らかにした。好気的メタン生成機構としては、ピコシアノバクテリアの光合成による無機態リンの枯渇とそれに伴う有機リン代謝が関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の調査では、水深の深い貧栄養な湖沼では亜表層にメタン極大が形成されやすく、メタン極大層では高い光合成活性と無機リンの枯渇が示唆された。この結果は、当初予測していた通りの研究成果であり、国内外を通して初めて得られた知見である。このため、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。ただし、メタンの炭素安定同位体比を用いた現場におけるメタン生成の検証については、メタン酸化細菌による大きな同位体分別が阻害要因となり、十分に解析することはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、当初の予定通り、培養実験を行うことで好気的メタン生成機構の解明を行う予定である。とくに、山梨県の西湖と本栖湖では非常に明瞭なメタン極大が形成されることが確認できたため、極大層の湖水を対象に現場培養を行い、さらに実験室では各種条件を制御(光、栄養塩、光合成阻害剤、メタン生成阻害剤)しながら、現場におけるメタン生成の有無とその機構をより詳細に明らかにする予定である。また、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による顕微鏡観察を行い、メタン生成に関わる微生物群を特定していく予定である。
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