2012 Fiscal Year Annual Research Report
湖表水層に出現するメタン極大層の形成パターンと好気的生成機構の解明
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23681003
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
岩田 智也 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (50362075)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | メタン / 湖沼 / 好気的メタン生成 / 温室効果気体 / 有機リン代謝 / プランクトン / CARD-FISH / メタン菌 |
Research Abstract |
平成24年度は、好気環境に明瞭なメタン極大が出現することを確認している山梨県西湖を対象に、湖水の培養実験を行った。前年度の調査により、貧栄養湖沼において浮遊生物の有機リン代謝によりメタンが生成している可能性が考えられた。そこで、メタン極大層の湖水に対し栄養塩濃度がメタン生成に及ぼす影響を評価する実験(N区、P区)、メタン生成に関与する代謝を特定するための実験(光合成阻害区、メタン生成阻害区、メタン酸化阻害区)、およびメタン生成の基質を特定するための実験(メチルホスホン酸区、エチルホスホン酸区)を実施し、メタン生成機構を検討した。 培養の結果、栄養塩添加の有無や各種阻害剤添加の有無はメタン生成に大きく関与していないことが明らかとなった。一方、メチルホスホン酸区からはメタンが、エチルホスホン酸区からはエタンが生成することが明らかとなり、C-Pリアーゼによるホスホン酸開裂が、好気的メタン生成の生理的メカニズムであることを明らかにした。 そこで、好気的メタン生成を担う微生物群を特定するために、CARD-FISHによる浮遊性細菌群集の解析を行った。西湖に加えメタン極大が形成されない長野県松原湖も対象とし、真正細菌、古細菌、メタン生成菌、シアノバクテリア、およびタイプIメタン酸化細菌を標的とした蛍光プローブを用いて群集構造の鉛直変化を比較した。その結果、メタン極大が形成される西湖の亜表層ではシアノバクテリアや古細菌と思われる微生物が局所的に多く分布しており、細菌数の鉛直変化の少ない松原湖とは大きく異なっていた。このことから、好気環境におけるメタン生成には、当初予想していたシアノバクテリアによるメチルホスホン酸代謝のほかに、古細菌による未知のメタン生成機構も関与している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の調査では、湖の亜表層に出現するメタン極大が、浮遊性生物による有機リン代謝(C-Pリアーゼによるメチルホスホン酸の開裂反応)によって形成されていることを明らかにした。この結果は、研究開始時に予測していたとおりの研究成果であり、また前年度の多地点調査で得られた知見とも整合している。また、この発見は2011年にドイツの湖沼で報告された好気的メタン生成機構を覆すものであり、重要な成果であると考えている。このため、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。 一方で、好機環境におけるメチルホスホン酸代謝とメタン生成にはシアノバクテリアが関与していると予想していたが、CARD-FISHによる浮遊性細菌の群集解析によると古細菌もメタン生成に関与している可能性が示唆された。古細菌の関与についてはこれまで予想しておらず、今後はその生理的機構も含めて詳細に検討していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、メタン極大形成の季節変化と微生物群集との対応関係を評価し、好気的メタン極大の形成機構をより詳細に明らかにする予定である。平成24年度の培養実験では山梨県西湖の湖水を対象に培養を行ったが、栄養塩添加や各種阻害剤の効果を検出することができなかった。この理由については不明であるが、季節的なメタン生成活性の変化が大きいことに因るものと考えている。そこで平成25年度は春から冬まで継続的に調査を行い、好気的メタン生成活性の季節変化を明らかにする。さらに、メタン生成活性が上昇する季節にしぼって室内培養実験を行い、各種条件を制御(光、栄養塩、光合成阻害剤、メタン生成阻害剤)しながら、現場におけるメタン生成の有無とその機構をより詳細に明らかにする予定である。また、CARD-FISHによる微生物群集解析では、シアノバクテリアや古細菌の関与が示唆されていることから、蛍光プローブの数を増やしながら微生物群集構造の季節変化を定量化し、メタン生成に関わる浮遊性細菌をより詳細に特定する予定である。
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