2011 Fiscal Year Annual Research Report
癌細胞上での革新的化学合成と非侵襲的イメージングの融合による癌転移の可視化と制御
Project/Area Number |
23681047
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田中 克典 大阪大学, 大学院・理学研究科, 助教 (00403098)
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Keywords | 6π-アザ電子環状反応 / シンセティックバイオロジー / 癌転移 / 糖鎖 / 細胞表層標識 / イメージング / 蛍光 / PET |
Research Abstract |
平成23年度では、報告者が開発した「高速6π-アザ電子環状反応」を用いて癌細胞を蛍光標識化し、ヌードマウス内での初期癌転移を非侵襲的に可視化することを試みた。特に、転移の鍵となる糖鎖遺伝子を欠損・回復させた癌転移を可視化して、糖鎖構造が癌転移に及ぼす効果を生きた動物レベルで実証することを目的とした。まず、既に確立した電子環状反応のプロトコルに従って、癌細胞に対して近赤外線領域に吸収を持つ蛍光色素(Hilyte Fluor 750)を導入した結果、癌細胞を殺傷することなく効率的に表面を蛍光標識することができた。そこで、癌細胞のアスパラギン結合型糖鎖(N-結合型糖鎖)が癌の転移に与える影響を蛍光イメージングにより検討した。始めに、ヒト胃癌株細胞MKN-45、およびN-acetylglucosaminyl transferase(GnT-V)を強制発現させたMKN-45糖鎖改変癌細胞について転移イメージングを実施した。GnT-Vを強制発現させることによって、癌細胞表層におけるマトリプターゼの耐性獲得やα5β1インテグリンのガレクチンを介した癌細胞の遊走と浸潤の亢進により、転移が促進されることが既に知られている。報告者の方法により標識した両者の癌細胞を、BALB/cヌードマウスの腹腔内に投与して蛍光イメージングを行った結果、MKN-45糖鎖改変癌細胞がより顕著な転移を示すことを明確に可視化することができた。 一方、N-結合型糖鎖におけるコアフコースが欠如したヒト結腸癌株細胞HCT116、およびフコースの合成に必要なGDP-mannose-4,6-dehydratase(GMDS)を遺伝子導入してフコシル化を回復させたHCT116糖鎖改変癌細胞についてもイメージングを行った。HCT116糖鎖改変癌細胞では、NK細胞によるTRAILを介したアポトーシスにより転移が抑制されることが共同研究者の成果より既に分かっており、報告者はこの効果についてもイメージングにより可視化することができた。このように、糖鎖構造に起因する癌転移の促進や制御効果を生きた動物レベルで非侵襲的に検証することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を実現する上で大きな目標として据えていた、報告者の化学反応を用いた癌細胞表面の標識化と続く転移のイメージングを実現することができた。さらに、糖鎖関連遺伝子を欠損・回復させた二種類の癌細胞を用い、糖鎖が癌転移に与える影響を非侵襲的に可視化することに成功した。以上の成果は、今後、癌細胞に糖鎖を人工的に導入して転移を制御する、さらには生きた動物内で直接、癌転移の可視化を試みるための重要な基礎成果であり、初年度の目的をほぼ達成するとともに、順調に研究が進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、転移抑制型として報告例のある糖鎖を電子環状反応を用いて癌細胞に導入し、転移を阻止できるかどうかを検証する。この際、様々な糖鎖を細胞表面に効率的に導入できる、より一般的な二世代の化学的手法も併せて開発する。一方、報告者の反応を、生きた動物内で癌組織選択的に実現して、癌組織を取り出すことなく直接、転移の可視化や阻止を試みる。本研究課題では、従来の転移実験で実施されてきたように、動物に癌細胞を導入してから数ヶ月の後に剖検するのではなく、数日~1週間で早期に転移、または転移を起こす直前のダイナミクスを検討することを目的としている。しかし、本年度で実施した蛍光イメージングではバックグラウンドの高さにより、実現が困難であることが判明した。そこで、今後はより高感度なPETイメージングも併用して検討する。
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Research Products
(28 results)