2011 Fiscal Year Annual Research Report
パレスチナ人の越境移動をめぐる意識と動態の総合的アプローチによる研究
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23681052
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
錦田 愛子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教 (70451979)
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Keywords | 中東 / 移民・難民 / トランスナショナル / パレスチナ / レバノン / 方法論 |
Research Abstract |
本研究は、パレスチナ人が移動に対して抱く意識および現状に至る移動過程を、質的調査と量的調査の補完的併用により、多面的かつ重層的に明らかにすることを目的としている。本年度はパレスチナ自治区を主たる調査地に設定し、ラーマッラーに本部を置く調査機関JMCC(Jerusalem Media and Communication Center)に委託して世論調査を実施した。アラビア語で作成した調査票には、移動の経験、移動の際の動機のほか、将来的な移動への期待や、使用する情報メディア、政治指導者や組織の選好など幅広い内容の問いを含め、回答者の性格を多面的に把握・分析できるよう配慮した。また独立変数としては現住地、出身地、経済状態などの他に、保持するパスポートとIDカード(身分証明書)の種類についても尋ね、手続き的な移動の制約が、実際の人の動態に与える影響を測れるよう考慮した。これらの設問は、研究代表者が2003~2005年に実施した質的調査の結果を踏まえて設定されており、調査結果を量的調査により再検証するという補完の形をとっている。こうした方法論的相互補完の手法をとった研究は、パレスチナ研究や中東地域研究といった枠を越え、他の研究分野にも適用可能な学際的アプローチとして価値がある。またパレスチナ研究の枠内においては、パレスチナ人の移動を、強制された移動ばかりでなく能動的な移動を含めて捉えることで、難民の主体としての側面に焦点を当てることが可能になる。自治区在住のパレスチナ人については、人権団体等の調査によりこれまで、法的な移動規制により日常生活に障害がもたらされる例が指摘されてきた。本調査での身分証明書類に関する設問は、その影響を包括的に捉える上で画期的な指標の役割を果たすことが期待される。調査の結果については年度内に既に分析を始めており、次年度以降に公開に努める計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はパレスチナ自治区での世論調査を実施し、その結果を分析する段階まで研究を進める予定であったが、実際には調査結果に基づいて第一次レポートを完成させ、さらに結果を公開するために平成24年度にルクセンブルクで実施される国際研究集会での報告に応募し、査読を通過し受理されたため。また研究代表者が別途経費にてパレスチナ自治区に渡航する機会を得たため、次年度に進める予定であった補足調査の足がかりも築くことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度実施した世論調査に基づき、今後はその成果を分析し、成果の公開に向かって進めていく。最初の分析結果については、英文論文にまとめて査読付きの国際ジャーナルに投稿する予定である。さらに平成24年6月にルクセンブルクで開かれる国際会議で成果について報告を行う。パレスチナ自治区での調査を踏まえて浮かび上がった疑問点等については、次年度中に質的調査によって細かい検証を行っていく。これに加えて次年度では、レバノン国内在住のパレスチナ難民を対象に、同様の世論調査を実施する予定である。これらの二つの世論調査を通して、異なる政治的・社会的背景におかれたコミュニティにおける移動の捉え方について、結果を比較検討していきたい。
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Research Products
(6 results)