2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23682002
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
Principal Investigator |
土屋 貴裕 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部調査研究課絵画・彫刻室, 研究員 (40509163)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 日本美術史 / 日本絵画史 / 絵巻 / 模本 / 売立目録 |
Research Abstract |
本研究は、絵巻の研究を従来顧みられることのなかった伝来や鑑賞歴といった作品の付属情報から捉え直し、推進する。研究にあたっては、絵巻の伝来、鑑賞歴に関わる情報を収集・蓄積した上で、絵巻が今日に至るまでにどのような軌跡を経て伝世したのかという、各作品の通時的な歴史性に配慮し、絵巻という媒体全体を視野に入れた総合的な分析を行うことを最終的な目標として設定する。具体的には、以下に示す三つの作業を進めた。 【1.文献資料記載絵巻関係資料の抜き出しとデータ化】 本研究が対象とする絵巻の伝来、鑑賞情報を得るためには、日記、古記録等の文献資料を博捜し、そこに記載された本文を整理する必要がある。抜き出しにあたっては、絵巻のみならず仏画、肖像画、屏風等、絵画関係の記事をピックアップし、本年度はおよそ50タイトルの文献資料から約600件の記事を抜き出し、その一部をデータ化した。 【2.東京国立博物館所蔵絵巻模本の調査】 絵巻模本の多くは近世に作られたが、その制作に際して、所蔵者や伝来等の情報が記されている場合がままある。本研究では、東京国立博物館所蔵絵巻模本の悉皆調査を目指し、目録の整理、撮影、所蔵者や伝来、模写者等の情報を収集すべく、模本リストの整理に着手した。調査順は列品番号順を基本として進め、本年度は狩野晴川院他模本約20件、冷泉為恭模春日権現験記絵巻全20巻の調査を行なうことができた。 【3.東京文化財研究所所蔵売立目録の調査】 上記の1と2が前近代における絵巻情報の収集と整理であるのに対し、近代における作品の移動等を追うため、売立目録に記載された絵巻の調査を進めた。とりわけ、東京文化財研究所には国内有数の売立目録が所蔵されており、その全てから、絵巻を中心とするやまと絵の情報を抜き出し、PDF化を進める準備を整えた。先年度分と合わせ約400タイトルの目録から約2,000件の情報を抜き出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は従来顧みられることのなかった伝来や鑑賞歴といった作品の付属情報から、絵巻の伝来を捉える点において独創性は高い。また、従来、断片的にとらえられてきた文献資料、売立目録の情報の総合的な把握は、絵巻研究のみならず、仏画、肖像画をはじめとする絵画の研究、さらには近代文化史にも寄与することができる。 先にも述べたように、本年度は文献資料記載絵巻関係資料の抜き出し、東京国立博物館所蔵絵巻模本の調査、東京文化財研究所所蔵売立目録の調査の三つを大きな柱として研究を推進した。そのデータ蓄積量は研究開始時に想定したものを上回り、限られた時間の中で効率的にデータ収集を行なえたことは特筆される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は全四年を研究機関として設定しているが、この限られた年度の中で、研究目標に掲げたすべてのデータの集約を行なうことはもとより不可能である。本研究は、膨大なデータの中から、まずはこのような伝来の研究にかかわる基盤を整備し、今後の研究につなげるための基礎研究として位置づけられる。 そのような中で、「現在までの達成度」でも述べたように、研究開始当初の想定よりデータをより多く蓄積できた。今後も同様の精度と深度でデータの集積を進めていきたい。 また、集約したデータをもとにした研究の推進が次年度以降の大きな課題となるだろう。あわせて、データの公開に関しては、文字資料のデジタルデータ化、画像撮影における高精細撮影などによってその基盤を進めつつあるが、膨大なデータ量をどのように効率的かつ、利用者にわかりやすい形で公開できるのか、技術面の検討も含め、次年度以降、研究協力者の意見を交えつつ、検討を進めていきたい。
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Research Products
(8 results)