2011 Fiscal Year Annual Research Report
モンゴルにおける製鉄の伝播と地域的・社会的適応の実証的研究
Project/Area Number |
23682010
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
笹田 朋孝 愛媛大学, 上級研究員センター, 講師 (90508764)
|
Keywords | 考古学 / 製鉄 / 遊牧国家 / ステップ / 国際情報交換 / モンゴル:ロシア:韓国 |
Research Abstract |
西アジアに端を発する鉄の東方への伝播の実態は不明である。これは西アジア世界と東アジア世界を繋ぐ中央アジアの研究蓄積が僅少であることに主な原因がある。モンゴル国も同様で、洋の東西を問わず多くの研究者の注目を集めながらも未解明の領域であった。加えて、モンゴルは世界史に多大な影響を与えた遊牧国家が勃興した地でもある。遊牧民族の強大化の背景には鉄の存在が想起されているものの、その実態は不明であり、資料に即した具体的な研究が必要であった。 本研究では平成22年の踏査で発見した製鉄遺跡である、トゥブ県ムングンモリト郡ホスティン・ボラグ遺跡の発掘調査の成果と資料の金属学的分析成果を基軸として、モンゴル遊牧民に製鉄がいかに伝播し、それに伴い遊牧社会が鉄ならびにその生産システムをどのように取り入れ、遊牧社会に適応したハイブリッドな社会システムを構築したのかを解明することを目的としている。 平成23年度の調査では製鉄炉の一部を検出することに成功した。木炭の放射性炭素年代は紀元前後の数値を示しており、周辺の遺跡の状況からも匈奴の製鉄遺跡と考えられる。本研究により、中国の文献史料には記されていない匈奴の製鉄の存在が明らかとなった。現時点の所見では土製羽口を使用し、炉内のスラグピットにスラグを溜めるタイプの製鉄炉である可能性が高い。また自然科学的分析結果から鉄鉱石を原料として直接製鉄法で鉄を製造していることが明らかとなった。これらの技術的特徴から言えば、中国ではなく、南シベリアなどに系譜が求められる。これらの研究成果については速報的に国内外の学会で発表し、周知をはかっている。 発掘調査を行った面積が狭いため、次年度以降は調査エリアを広げ、複数の炉を調査することで上記の所見を検討するとともに遺跡の存続年代についても検討を行っていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主眼となる現地調査を問題なく実施し、モンゴルでは初めてとなる製鉄炉を検出することに成功した。また調査成果を速報的に国内外の学会で発表し、私たちの研究活動が周知されつつある。そして、次年度以降も調査の継続が保証されている。上記の理由により(2)と自己評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究により一年間の研究サイクルを確立することができた。本年度もモンゴルでの製鉄遺跡の発掘調査を継続する。本年度から地質学的な調査や民族学的な聞き取り調査を開始する。これらの活動を通して、地元住民への研究成果の周知を図る。発掘調査の認可ならびに分析試料の国外持ち出しについても、所定の手続きを経た上で実施しているが、止むを得ない事情でこれらが困難な場合は既に入手している資料の再調査で充当させる。 平成24年度からは研究体制を拡充し、イェール大学のハニーチャーチの調査チームとそれぞれの長所を活かすことで研究を推進することになっている。
|