2012 Fiscal Year Annual Research Report
モンゴルにおける製鉄の伝播と地域的・社会的適応の実証的研究
Project/Area Number |
23682010
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
笹田 朋孝 愛媛大学, 上級研究員センター, 講師 (90508764)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 考古学 / 製鉄 / 遊牧国家 / ステップ / 国際情報交換 / モンゴル:ロシア:韓国 |
Research Abstract |
西アジアに端を発する鉄の東方への伝播の実態は不明である。これは西アジア世界と東アジア世界を繋ぐ中央アジアの研究蓄積が僅少であることに主な原因がある。モンゴル国も同様で、洋の東西を問わず多くの研究者の注目を集めながらも未解明の領域であった。加えて、モンゴルは世界史に多大な影響を与えた遊牧国家が勃興した地でもある。遊牧民族の強大化の背景には鉄の存在が想起されているものの、その実態は不明であり、資料に即した具体的な研究が必要であった。 本研究では平成22年の踏査で発見した製鉄遺跡である、モンゴル国トゥブ県ムングンモリト郡ホスティン・ボラグ遺跡の発掘調査の成果と資料の金属学的分析成果を基軸として、モンゴル遊牧民に製鉄がいかに伝播し、それに伴い遊牧社会が鉄ならびにその生産システムをどのように取り入れ、遊牧社会に適応したハイブリッドな社会システムを構築したのかを解明することを目的としている。 平成24年度のモンゴル科学アカデミー考古学研究所との共同調査では製鉄炉3基、焙焼炉2基、廃棄土坑2基を検出することに成功した。木炭の放射性炭素年代は紀元前1世紀~紀元後1世紀の数値を示しており、周辺の遺跡の状況からも匈奴の製鉄遺跡と考えられる。 本研究により、中国の文献史料には記されていない匈奴の製鉄の存在が明らかとなった。土製羽口を複数本使用し、炉内のスラグピットにスラグを溜めるタイプの製鉄炉である。また自然科学的分析結果から、焙焼した鉄鉱石を原料として直接製鉄法で鉄を製造していることが明らかとなった。このような技術的特徴から考えれば、中国ではなく、南シベリアなどに系譜が求められる。これらの研究成果については速報的に国内外の学会で発表し、周知をはかった。そして、「製鉄遺跡の発見・研究」に対して、モンゴル科学アカデミー考古学研究所から功労賞を授与された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主眼となる現地調査をモンゴル側の共同研究者たちとこれまで問題なく実施し、モンゴルでは初めてとなる製鉄炉を検出することに成功した。また調査成果を速報的に国内外の学会で発表することにより、私たちの研究活動が周知されつつある。 そして、これまでの研究成果に対して、モンゴル科学アカデミー考古学研究所から”功労賞”を授与されている。 現地調査遂行上の諸手続きにも大きなトラブルも無く、次年度以降も調査の継続が保証されている。 上記の理由により②と自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により一年間の共同研究サイクルを確立することができた。本年度もモンゴルでの製鉄遺跡の発掘調査を継続する。また、生産された鉄がどのように使われ、どのように廃棄されたかを知るために、本年度から墓の調査も開始する。これらの活動とともに、地元住民への研究成果の周知を図る。発掘調査の認可ならびに分析試料の国外持ち出しの認可についても、所定の手続きを経た上で実施しているが、止むを得ない事情でこれらが困難な場合は既に入手している資料の再調査で充当させる。 3年目(平成25年度)・4年目(平成26年度)は1年目と2年目と比べて研究費が少なくなっており、また円安が進んだ結果、モンゴルでの調査予算が総体的に著しく減少している。少ない予算で着実な成果をあげられるように、狙いを絞って調査・研究を行っていきたい。
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