2012 Fiscal Year Annual Research Report
現代中国における労働権の権利構造とそのメカニズムに関する研究
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23683001
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
御手洗 大輔 早稲田大学, 法学学術院, その他 (80553099)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 権利構造 / 所有権 / 労働権 / 理論研究 / 研究方法論 |
Research Abstract |
①社会保障制度改革と労働権の関連性についての検討、②労使紛争の傾向性についての定点観測、③各地の档案館における史料検索を実施した。 ①については、中国の失業保障の法的構造について現地調査で運用実態を確認したうえで、その限界についてまとめた(「中国失業保障の法的構造とその限界に関する研究」)。また、日本と中国の社会保障制度に関する異同について、胡光輝講師(北陸大学)と意見交換した。これらの分析を通して、中国法が規定する労働権の権利主体は、労働者とそれと相対する失業者とが、労働法制の事情(より多くの働く人を労働者にしたい)と失業法制の事情(基金の枯渇を懸念してできるだけ失業者としたくない)を背景に分離しつつあることが明らかになった。これは、これまでの中国法における労働権のあり方に影響し、その権利理論の前提を転換する恐れがある。 ②については、労働環境の変化やインフレによる生活環境の変化を背景に、労使の間に信頼関係が築けない原因を探究した(「中国における賃上げ政策と顕在化する労使関係上の課題」)。日本では統計上個別的労使紛争の割合が低下し、集団的労使紛争の割合が上昇した点を捉えて、その傾向性に変化が見られるとする指摘が多い。しかし、定点観測で得た現在のデータからは、紛争を起こす主体が個人か集団かによって傾向性に明確な違いは見られていない。引き続き定点観測を行なう必要があろう。 ③については、5か所の档案館を訪れた。瀋陽市档案館では口頭で該当する史料はないとの回答があった。蘇州市档案館では口頭で内部文献として保管している旨の回答があったが、内部文献であるためにさらなる要件(上級の档案館または現地研究機関等の紹介状)が必要として開示を拒否された。南京市、蘇州市および哈爾浜市の档案館は、この要件を検索するために必要とされ検索できなかった。この4か所については、紹介状を入手して再実施したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
労働権から見た中国法の権利構造とそのメカニズムの転換前後の内実について(研究計画II)はすでに明らかにした。また、社会保障の制度改革と労使紛争の傾向性から転換後の内実について(研究計画IIIおよびIV)も分析を続けると同時に適宜論考を上梓している。さらに、中国法研究へのフィードバックについて(研究計画V)も、法学のディシプリンから整理を行ない、直面している課題を明らかにした。その一方で、権利構造が確立した際の状況について(研究計画I)は、一部の档案館で、閲覧請求するための要件が厳しく、公開を拒絶されている。閲覧できた档案館では関連史料を発見できなかった。そのため、最終的には、当時の調査報告の送付先である中央政府の档案館(中央档案館)で関連史料を検索する必要があると予想される。 現在までの到達度としては、研究計画Iを除くと概ね順調に遂行していると言える。研究計画II~Vについては、関連する論文をこれまでに上梓しているからである。研究計画Iの遅延は、一部の档案館で、関連史料を「内部文献」として指定し、通常より厳格な閲覧要件を設定しており、これを事前に把握できなかったためである。渡航費用等を鑑みると、必要な書類を取得するために中国に窓口を設けて交渉するのが適当である。早急に窓口を設置することにしている。この窓口を通じて必要な書類を取得したうえで、今年度残りの档案館を再訪して確認し、中央档案館で検索する必要があるかどうかを判断したい。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度から明らかなように、労働権から見た中国法の権利構造が確立した際の状況について(研究計画I)、各地の档案館が所蔵する関連史料の検索に若干の遅れが生じている。この原因は、検索するための要件が通常より厳しいためである。必要な紹介状を取得するために、今後は、中国国内の調査協力者を窓口として手配を進めることにしている。この措置を通して、今年度中に、残りの档案館の関連史料を確認し終える予定である。しかしながら、これまでに検索できた档案館で関連史料を確認できなかったことを考えると、残りの档案館で関連史料を確認できる可能性は低いと思われる。当時調査報告を送付した先である中央政府の档案館で関連史料を検索する方法についても最新の状況を適宜確認しておきたい。 その他研究計画II~Vについては、これまでの到達点を前提に引き続き定点観測を行ないながら、多角的な分析を行なっていきたい。なお、統計データを始めとする公開資料で具体的な表記の減少(案件細目の非公開化、データ元の非公表など)について、これを打開する方法を現時点で確認できていない。打開する方法について引き続き検討していく。 なお、今後の研究全般について見ると、減額された研究資金を前提に遂行しなければならない。したがって、現時点では他箇所の資金獲得(予定)によって減額分を補てんすると同時に、調査の日程を密にして、現地調査の効率を更に高めるよう努めたい。
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