2013 Fiscal Year Annual Research Report
現代中国における労働権の権利構造とそのメカニズムに関する研究
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23683001
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
御手洗 大輔 早稲田大学, 法学学術院, その他 (80553099)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 法学 / 現代中国法 / 権利論 / 労働権 |
Research Abstract |
2013年度は、①前年度までに実施できなかった档案館における史料検索と②労使関係(労使紛争を含む)の傾向性に関する定点観測、および③社会保障体制の施行状況の調査を行なった。 まず①については、1956年1月公布の私有不動産改造意見を作成する前提となった調査報告書の中で、未検索だった南京市、ハルビン市および無錫市について史料検索を実施した。この結果、存在するはずの10本の調査報告書の有無について確認できた。同時に当該文書は「中共中央文件選集」として公開されたが、各地の調査報告書と同意見の作成過程を実証するものではなかった。各地の調査報告書については上海、南京および瀋陽のもののみが現時点では確認できる。中央档案館所蔵の档案の確認が不可欠であることが分かった。次に②については、上海および南京で定点観測を行なった。特に上海市では、現地の法律事務所のスタッフから労使紛争の傾向を確認すると同時に、それが集団労使紛争となる場合とならない場合の背景的違い等について意見交換を行なった。なお、本年度は「労働者概念の転換と現代中国法」(『転換期中国の政治と社会集団』国際書院2013年所収)を上梓した。そこでは、労働者概念の転換とその論理を、労働法制および失業法制の変遷の両面から検討した。現代中国が転換期にあるとすれば、従前の労働者概念を維持することは今後難しく、この概念に代わる普遍的な主体概念が必要になろう。 ③については、上海、南京、ハルビンおよび無錫の労働市場を調査した。特にハルビン市においては、政府機関が職業紹介などの従来の公的サービスに加えて、労使間の労働契約等の締結から管理までを一元化してサポートする新たな試みを実施していた。これは、政府が派遣業務や企業法務を引き受ける仕組みであり、今後の定着と中国全土への普及の有無が注目される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
懸念であった各地の档案館の史料検索を完遂できた。各地から中央政府に提出された調査報告書の全てを入手できたわけではないが、中央档案館に所蔵されていることは間違いなく、今後の実証研究を進めるうえで納得できる予備調査になったと言える。 労使関係の傾向性に関する定点観測においては、一部で法的リスクを予想し易くなったという新たな意見を得た。今後、それらの因果関係を分析しつつ、一般的な傾向性として論証できるか試みたい。 そして、社会保障法制の施行状況においては、公的機関による労務管理をすすめる新たな動向を観察できた。これを改革開放以前の「単位社会」と比較分析することによって、新たな知見を得られることが期待できるし、持続可能な社会および労使関係の在り方から理論化することも十分にその意義を認められると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度が本研究の最終年度である。これまでの成果を整理すると、現代中国における労働権の諸現象に関する考察および学問としての現代中国法を目指し、法学における日本の現代中国法研究の考察を行なってきたと言える。 これらのほかに、本研究は、現代中国法の権利構造について、労働権のそれを通じて明らかにし、現代中国における権利論として論証することを計画している。今後は、この点について、これまでの成果との論理整合性を検証しながら研究し、成果物として出版できるよう努める。
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Research Products
(1 results)