2012 Fiscal Year Annual Research Report
遷移ダイナミクスへの新しいアプローチ:力学系の大域計算と計算トポロジーの融合
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23684002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
荒井 迅 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80362432)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 応用数学 / アルゴリズム / 力学系 |
Research Abstract |
本研究では様々な数理モデルに表われるダイナミックな構造の変化を解析するための新しい数学的手法を開発することを目標としている。特に力学系や流体力学的な流れの時間発展の構造を有向グラフで表現し、そのグラフに対して様々なアルゴリズムを適用して構造の変化の情報を引き出す研究が主な対象である。 本年度は特に、力学系から得られた有向グラフに対して様々なグラフクラスタリングアルゴリズムを適用して得られるクラスター分解の力学系的な意味づけや、アルゴリズムの安定性などを研究した。結果として、力学系の特徴的な振舞いに対応した分解を高速に得るアルゴリズムを開発し、またその挙動についても幾つかの知見が得られた。 とくにアルゴリズムの安定化という面では、グラフを無向化して時間の向きを無視するとにより、グラフのクラスター分解のレベルでは情報が落ちることなく、むしろ得られる分解が安定化することもわかった。無向化することで、グラフ上の確率過程などの技法を導入することも可能となった。 遷移ダイナミクスという本研究の本来の観点からは、グラフの表現行列の自乗により得られる、より長時間の挙動に対応したグラフのクラスター分解を見ることにより、力学系の振舞いに特徴的なタイムスケールを同定することがある程度可能になることがわかった。 また、同様のアルゴリズムにおいて、有向グラフに確率的なノイズをかけることにより、得られる分解結果が安定化するということも数値実験の結果として得られた。これらの現象の解析は今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
力学系から得られたグラフに対する操作の研究については、当初の予定より若干の遅れがあるものの、クラスタリングアルゴリズムの利用など、当初の想定とは異なる成果も得られている。また、計算トポロジーの方向で絡み目の絡み数計算アルゴリズムが得られるなどの進展があり、今後の研究の進展においてこれらの相互の連携も期待できるため、総合的にはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、より応用的に意味のあるアルゴリズムを設計していく上では計算トポロジーのアルゴリズムとの融合が必要である。この方向では、昨年度に得られた、3次元空間の点列として与えられた絡み目のデータに対して絡み数を計算するアルゴリズムとの連携をまず研究することになる。また、クラスタリングアルゴリズムに関しては、その安定性や得られる分解の周期性についての数学的な解析も進める必要があり、この方面ではアルゴリズムの挙動をセルオートマトンとして定式化し、力学系的な手法を使って解析を進める研究を行なう予定である。 応用範囲を拡げるためには、時系列データなど不完全な力学系のデータに対しても適用できるようにアルゴリズムを拡張する必要があり、その方面ではどのような形で不完全性を表現するかが問題になる。現状ではグラフに対して確率的に辺を載せることにより、ノイズや不完全性を表現しているが、それを表現するランダム行列に対してグラフ理論のアルゴリズムの挙動を調べる研究を進める。
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