2012 Fiscal Year Annual Research Report
強相関フェルミ原子気体の二流体現象の観測と輸送係数の測定
Project/Area Number |
23684033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀越 宗一 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00581787)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 量子エレクトロニクス / レーザー冷却 / フェルミ縮退 / 超流動 |
Research Abstract |
成果としては主に①6Liと7Liの同時レーザー冷却、②高強度レーザーを用いた冷却原子の捕獲の2点である。相互作用しているフェルミ粒子の温度を正しく評価する為には、温度計として用いる7Li原子を同時に冷却する必要があり、また冷却された原子を高効率に光トラップに移行する必要である。詳細は以下の通りである。 ①6Liと7Liの同時レーザー冷却:相互作用しているフェルミ粒子系の温度評価には3通りある。1つ目は温度計となる原子を混合する方法、2つ目は光トラップに閉じ込められている粒子の密度分布の裾の部分から温度を評価する方法、3つ目は粒子のエネルギーとエントロピーを測定しその勾配から温度を導出する方法である。我々はこれらの3つの温度計の妥当性を1つの実験装置で評価できるようなシステムを開発している。2番目と3番目の方法は高分解能撮像システムによって行われるが、他の研究予算で行っているため省略する。本研究では1番目の方法を実行する為、7Li用のレーザー冷却光源を新たに開発し、6Liと7Liの同時レーザー冷却を実現した。結果として両同位体共に5千万個の原子を300μKの温度に冷却する事に成功した。 ②高強度レーザーを用いた冷却原子の捕獲:本研究では実験手順の簡易化とデータの取得レートを上げるため、200Wの高強度ファイバーレーザーを用い、深い光トラップでレーザー冷却されたLi原子を直接捕獲する方法を試みた。この手法は国内では初めての試みである。高強度に由来する光学系の熱レンズの問題が生じたが、光学部品や光学部品に照射する際のビーム系等を注意深く選択する事により熱レンズ効果は軽減され、安定に100万個の原子を光トラップに移行に成功した。トラップ寿命も90秒を実現し、これは熱平衡状態に達する時間スケールよりも十分長いため、超流動転移実現のための高効率の蒸発冷却が見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画ではフェルミ超流動を実現し、レーザー光で生成されたチューブ状のポテンシャルに超流動と常流動の2成分を流し込みダイナミクスを観測している予定であったがまだできていない。実際は光トラップに6Liを閉じ込め、超流動転移が起きるよう蒸発冷却を行っている段階であり、予定より遅れている。遅れた原因や反省点は以下の通りである。 ①高強度レーザーによる熱レンズ効果:本研究では波長1070nmの200Wファイバーレーザーを用いて光トラップを行う。光トラップ自体は早い段階で出来ていたのだが、トラップした100ms後位からトラップ位置が熱レンズ効果で動く問題が発生した。光学部品の選択や光学部品に照射する際のビーム径に注意する事により、熱レンズが問題にならない程度に軽減できた。 ②光トラップのビームウエストの見誤り:当初レーザー冷却された冷却原子雲のサイズと光トラップのサイズのオーバーラップを良くするため、50μmのビームウエストで原子をトラップしていた。結果として100万個の原子を光トラップに移行できたのだが、蒸発冷却が働かなかった。蒸発冷却の理論を元に再考慮した結果冷却原子の閉じ込めが弱い事が解り、一部光を分けて22.5μmのビームウエストでクロストラップし、太いビームで冷却原子を捕まえ細いビームに受け渡し蒸発冷却を行う手段に変更した。結果として現在蒸発冷却が働いているデータが得られており、超流動転移に近づいている。 ③レーザー冷却光源の改良:リチウムのレーザー冷却光源を増幅する為これまで注入同期法を用いて増幅していた。しかし長期的な安定度が得られず安定に実験が行えない状況にあった。とりあえず先に進めようと問題解決せずに実験を進めていたが、かえって時間のロスになってしまった。現在光源を改善し安定に実験ができるようになったが、判断を誤ったと反省している。
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Strategy for Future Research Activity |
残念ながら当初研究目的にしていた、第二音波の測定がオーストリアのグループによって報告され、細いチューブ状のポテンシャルに超流動と常流動を流し、移動度を測定する実験がスイスのグループによって報告されてしまった。そこで最終年度では以下の実験に取り組む。 ①凸凹ポテンシャル中での集団モード:常流動は壁の摩擦を感じ、超流動は感じない。この特徴を用いて超流動密度敏感な測定を目指す。これまでの冷却フェルミ原子の実験では常流動性分と超流動成分が同位相で振動する集団モードの研究しか行われていない。そこで光トラップ中に異なる波長のレーザー光で定在波を生成し、常流動と超流動で流れやすさが異なる環境下での集団モードを実験的に調べてみる。理論的予測はない。 ②フェルミ超流動のブロッホ振動:フェルミ超流動の存在でバンド構造が変化し、ブロッホ振動を観測すると超流動密度由来の変化がみられると理論的に予測されている。①の実験と共にこちらの実験も進める予定である。 ③スピンインバランス系での集団モード:スピンインバランス系では中心に対形成したフェルミ超流動が存在し、外側には対形成できなかった粒子が存在している。中性子過剰原子核では陽子と中性子が逆位相で振動するようなジャイアントモードが存在するが、冷却フェルミ原子のスピンインバランス系ではどのような流弾モードが存在するのか知られていない。実験で試してみる予定である。
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Research Products
(2 results)