2011 Fiscal Year Annual Research Report
電子・陽子質量比の微小時間変化の検出に向けた冷却分子の精密分光
Project/Area Number |
23684034
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 淳 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教 (50579753)
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Keywords | 量子エレクトロニクス / 原子・分子物理学 / 超精密測定 |
Research Abstract |
本研究の目的は、冷却分子を用いることで電子・陽子質量比の微小な時間変化を精度よく評価することにある。しかし現状では、分子の精密分光技術は原子の精密分光技術に比べ未発達である。本研究では電子・陽子質量比に敏感な遷移の観測を行うと共に、分子の精密分光技術の開発も同時に行っていくことを目標としている。平成22年度までに、我々はレーザー冷却された原子を光会合を用いて会合させ、浅く束縛された分子を生成し、さらに誘導ラマン断熱遷移を使って振動基底状態(X^1Σ^+,v=0,J=0)の分子を生成することに成功している。 平成23年度の交付申請書においては、Rb_2分子を用いて研究を行うことを目指し計画を立てていたが、具体的な研究手法についてさらに深く検討した結果、KRb分子を使ったほうが測定が行いやすいという結論に至り、KRb分子を用いて研究を進めてきた。具体的にはRb_2のような同種原子からなる2原子分子は、KRb分子のような異なる2原子からなる2原子分子に比べ、(1)光会合のレートが小さくなる、(2)gerade-ungeradeといった選択則があるため、誘導ラマン断熱遷移による振動基底状態の分子生成が行いにくい等の理由で、得られる分子の数が少なくなってしまうと考えられたからである。 我々は平成23年度中にKRb分子のX^1Σ^+,v=0→b^3Π_0,v=0遷移の観測に世界で初めて成功し、この遷移を用いた分子のレーザー冷却が可能であることを実験的に初めて示した。分子のレーザー冷却を用いることにより、これまでよく行われている分子ビームを使った分子分光の実験よりも、さらに高い精度での分光が可能になると考えられる。 さらに、我々はKRb分子の電子・陽子質量比変化に敏感な遷移である、X^1Σ^+,v=91→a^3Σ^+,v=22遷移のマイクロ波による直接遷移に初めて成功し、その遷移周波数を高い精度で特定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の概要でも触れたように、研究対象をRb2分子からKRb分子に変更したが、我々は平成22年度まではKRb分子を用いた研究を行ってきており、実質上平成22年度までの研究をさらに延長する形で研究を行うことができた。そのため、Rb2分子に対する基礎的な分光データ収集を行う予定を繰り上げて、さらに先へ進むことができた。特にX^1Σ^+,v=0→b^3Π_0,v=0遷移が分子のレーザー冷却に適しているかどうかは、実際に観測するまで不明であったが、これがレーザー冷却に適していることを明らかにしたことは大きな進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記のX^1Σ^+,v=0→b^3Π_0,v=0遷移を用いて実際に分子のレーザー冷却を実現する。さらに、レーザー冷却された分子を用いてより高い精度で、電子・陽子質量比の変化に敏感な遷移の観測を行っていく。 ただし、これまでのX^1Σ^+,v=91→a^3Σ^+,v=22遷移の観測実験において、この遷移が磁場に対して敏感な遷移であり、実験装置の磁場の揺らぎによって測定精度が制限されていることが判明した。今後は磁気シールド用いて磁場の揺らぎを抑制することを検討している。さらに将来的には原子の同位体を変更することも視野に入れて研究を進めていく。
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