2011 Fiscal Year Annual Research Report
ガラス形成液体における動的不均一性とその時空間構造の理論解析
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23684037
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
金 鋼 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (20442527)
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Keywords | ガラス転移 / 過冷却液体 / 多点相関 / 多時間相関 / 動的不均一性 / 動的相関長 / 分子シミュレーション |
Research Abstract |
液体が凝固点以下に過冷却されてもそのアモルファス構造が保持したまま動力学が凍結するガラス転移の性質について、その極端に遅い緩和現象の背後にある動的不均一性と呼ばれる分子の協同的運動について解析をおこなった。協同的運動を特徴付ける動的な相関長を抽出するためには、密度場の多点相関関数を解析することが本質的であり、理論・シミュレーション・実験によって現在盛んに研究がされている。最近、ガラス転移現象に対するモード結合理論と呼ばれる理論枠組みを3点相関関数まで拡張することによって動的相関長を理論的に捉えることに成功しており、現在その理論予測の可否について議論の中心となっている。本研究では、モード結合理論が予言する結果をシミュレーションサイドから検証することを目的とし、ガラス転移を示す単純液体のモデルに対する分子動力学シミュレーションを用いて密度場の3点相関関数を計算した。より具体的には拡張されたモード結合理論とまったく同じセットアップにしたがって、非一様外場中における2点相関の応答関数を計算することによって目的である3点相関関数を数値的に評価した。数値的に多点相関のシグナルは2点相関のものに比べると圧倒的に弱く、シグナル/ノイズ比を良くするため積算を通常の2点相関関数の計算に比べて約100倍以上多く取っている。シミュレーションによって得られる3点相関関数の外場として印加した密度変調の波数依存性から、モード結合理論と同様に動的相関長を決定することに成功し、温度が低下されガラス転移点に近づくしたがって相関長が増大していくことを見出した。特にモード結合理論によれば3点相関関数の波数依存性は、気体-液体の臨界現象でみられるローレンツ関数ではなく、高次の4次項を含む拡張ローレンツ関数になると予言しているが、シミュレーションによって得られたものと定性的に一致することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ガラス形成液体の動力学において共通して見られる動的不均一性に対して、非一様な外場下における応答関数として検出できることを分子動力学シミュレーションから実証したことは初めての試みであり、意義は大きいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでガラス形成液体のモデルとして分子を排除体積のある球形分子として極力簡単なモデルを用いてシミュレーションを行なってきた。ガラス転移の背後にある本質を捉えるためには威力を発揮するが、実在する系との対応が希薄になる弱点がある。そこで次年度は、より現実的な過冷却水を取り上げ、モデル依存性を調べる。特に、分子の並進運動と回転運動がどのようにカップルするのか、そこでの動的不均一性の役割について、多点・多時間相関関数による解析によって明らかにする。
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