2012 Fiscal Year Annual Research Report
結晶格子変調はイオン伝導性固体の新規物質探索手法となりうるか?
Project/Area Number |
23686020
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井口 史匡 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00361113)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 固体電解質 / 結晶格子変調 / 残留応力 / 酸素イオン導電体 / プロトン導電体 / 薄膜 / 多結晶体 |
Research Abstract |
今年度は熱応力を用い異なる格子変調状態の固体電解質材料を得るために,酸素イオン導電体であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を,石英ガラス,アルミナ,窒化アルミなどの各種基板上にPLD法を用いて薄膜化し,その格子変調と導電特性の関係について検討を行った。 XRD側傾法,高温XRD,基板変形量からの導出など様々な方法を用いて室温から800℃程度までの格子変調の程度を比較した結果,石英ガラス基板においては高温でガラス基板の軟化によると思われる応力の緩和が観測され,想定通りに格子変調がされなかったが,アルミナ基板上においてはYSZと基板の熱膨張係数差から考えられる熱応力に応じた格子変調が高温時においても導入されていることが明らかになった。この格子変調の度合いは応力換算で数百MPaに匹敵し,しかも基板の種類を変える事で制御できるものであった。 作製した格子変調が導入された薄膜の導電特性を交流インピーダンス法とファンデルポー法を用いて評価した。格子変調の程度と文献値から考えると,測定における誤差を超えた有意な差が観測されるはずであったが,作製した薄膜の導電特性には格子変調と関連付けられるような有意な差は観察されなかった。文献における格子変調による導電特性の変化は単結晶を用いて得られたものであり,本研究に用いた薄膜は多結晶である。イオン伝導体においてキャリアであるイオンは結晶構造内で強い異方性を持ち伝導するものであり,多結晶のようにイオン伝導方向に複数の結晶方位が配列するような場合においては,格子変調の影響が正負で現れる可能性があり,その結果平均的な特性としてほとんど導電特性が変化しなかったと思われる。このように格子変調を材料開発に用いる場合には多結晶性が大きな障害となることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究においてはイオン伝導性固体内における格子変調を用いる事で新たな材料開発が可能かを検討し,それを取り入れた材料開発手法を考案,実証することを目的としている。 研究実績でも述べたように,格子変調させた酸素イオン導電体の多結晶薄膜は数百MPaに相当する格子変調度合の差が存在するものの,有意な導電特性の差を示さなかった。その原因として,多結晶性の薄膜であることが示唆された。この結果は格子変調を材料開発に用いる際の適用範囲についての知見であり,有意義なものであると考えている。 しかし当初の想定では多結晶体においても一定の差は観察できると考え,その結果を受けて実際の材料開発に適用する手法を考案し,実証を試みることを考えていたため,その観点からは現在の進行状況はやや遅れているといえる。 下記に示す研究の推進方針に従い,最終年度において研究目的を達成できるよう努力する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの結果を受けて今年度は下記の2項目を重点的に行う。一つ目は多結晶性により格子変調の結果が打ち消されているのかを確認することである。初めに基本に戻り,単結晶薄膜や単結晶試料を用い,想定された格子変調度合で導電特性が変化することを改めて確認する。また酸素イオン導電体のようにイオン伝導のパスが異方性を持っているものと異方性が弱いものなどを比較し,多結晶体においても格子変調を利用する方法がないかを模索する。 もう一つは多結晶体内における2相分離現象などを利用することで外部応力ではなく内部から励起される応力による格子変調を利用することができないかを検討することである。例えばYSZ系においてはイットリウムの飽和度の温度依存性によりエイジングすることで結晶内の特性の方向,異なる結晶方位を持った相が析出することが良く知られている。この現象をまずスタートとして,析出具合による結晶の変調具合と導電特性の関係について研究を行っていく。 上記2項目を行う事で格子変調による材料開発に関する知見や方法論を確立することを目的として推進していく予定である。
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