2012 Fiscal Year Annual Research Report
水素中時効による高強度・高導電性チタン銅合金の開発原理
Project/Area Number |
23686104
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
千星 聡 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00364026)
|
Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2014-03-31
|
Keywords | 銅合金 / 導電性材料 / 組織制御 / 時効析出 / 水素 / 抽出分離 / 透過型電子顕微鏡 / X線回折 |
Research Abstract |
電子部品の小型化、効率化、多様化が求められる中で、主要構成材料である銅合金も高性能化、多様化の要求が強い。高強度銅合金の1つである時効析出型チタン銅(Cu-Ti合金)は優れた強度特性や応力緩和性、疲労特性を有し、最近では水素中時効により導電率も著しく改善されることが報告された。今後、効率よく特性改善や用途開発を推進していくためには、本合金系の組織制御法の指導原理の確立が必要不可欠となる。そのため本年度は、時効にともなうCu-Ti合金中の析出挙動を新規の手法(抽出分離法)を駆使して調査・検討した。 Cu-4mol%Ti合金を溶体化し、真空中にて450度で1~240 h時効した。0度 の7M硝酸水溶液に試料を浸漬して母相のみを溶解する。ろ液中に難溶解性残渣として残された析出物粒子を孔径50 nmのフィルタにて吸引ろ過して抽出した。試料組織および残渣の形状をFE-SEM, TEMで観察した。残渣の構造、組成をそれぞれX線回折、ICP発光分光分析にて解析した。 抽出出分離では試料中から微細な針状Cu4Ti(正方晶)と粗大なセル状Cu4Ti(斜方晶)の両相とも残渣として採取し、その総量を測定できる。また、抽出した析出物粉末をXRD-Rietveld解析すれば微細針状Cu4Tiと粗大セル状Cu4Tiの存在比を算出できる。時効にともない試料中の析出物総量は増加し、平衡状態図より見積もられる析出物量に近づく。時効初期では微細針状Cu4Tiが銅母相中に優勢に析出するが、時効にともない粗大セル状Cu4Tiの割合が増加し、240 h後では粗大セル状Cu4Tiが97%を占める。一方、微細針状Cu4Tiの体積分率は時効24 hに最大となる。これは試料のピーク硬さと対応する。これより本合金系での時効硬化に対しては微細針状Cu4Tiが最も寄与が大きいことが確認できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験計画では、水素中時効にともなうCu-Ti合金の組織変化を平衡論・速度論的アプローチにより実験的に調査することを目標に掲げた。一方で、研究の中で「抽出分離法」の適用により合金中の析出挙動を定性的・定量的に高精度で評価する手法を開発した。本年度は、従来法(真空時効)した合金においても今まで未明であった組織的情報が抽出分離法の利用により系統的に獲得できたため、これまで未解明であった析出挙動を解明できたことが大きな進捗といえる。 2013年度(最終年度)では、抽出分離法を活用して、水素中時効した合金中の析出物(準安定Cu4Ti, 安定Cu4Ti, TiH2)の生成を速度論的観点から整理する予定である。また、抽出分離法では析出物の定量分析が容易であるため、Cu-rich側のCu-Ti-H三元系実験状態図を信頼性高く提案することができる。これまでの成果を受けて、最終年度ですべての検討項目を効率よく遂行できる目途が立ったため、総合的に鑑みて、概ね計画通りに研究を進めることができているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2012年度では、新しく考案した「抽出分離法」を利用してCu-Ti2元系合金の時効にともなう析出挙動を解明し、速度論的・平衡論的な知見を獲得した。今後の研究では、本手法をCu-Ti-H3元系合金に適応する。これにより得られる析出物の組成や生成量などの定量的な情報を基調にして、実験状態図を作製する。また、実験的情報を計算状態図の構築にフィードバックする。実験・理論の両方からCu-Ti-H系平衡状態図の妥当性を検証しながら、Cu-Ti-H系において形成される平衡相を合金組成、温度、水素圧力の関係として整理し、合金設計のための基盤とする。次に、組織を明らかにした試料に対して力学的・電気的特性を調査していく。合金組織と特性との関係を明確にして、組織制御による特性向上の可能性を見極める。
|
Research Products
(9 results)