2011 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳類嗅覚受容体遺伝子と特異的な行動との対応関係の解明
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23687003
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Research Institution | Osaka Bioscience Institute |
Principal Investigator |
小早川 高 財団法人大阪バイオサイエンス研究所, 神経機能学部門, 研究員 (60466802)
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Keywords | ゲノム |
Research Abstract |
天敵臭は多数の匂い分子からなる混合物なので、単一の匂い分子によって恐怖行動を誘発できるのかは不明であった。私たちは、自ら発見した天敵臭に対する恐怖反応を遺伝的に制御する嗅覚神経回路の活性に着目することで、これまでに知られていた天敵臭の成分(TMT)に比較して、最大で10倍もの頻度で恐怖反応の指標である「すくみ行動」や特異的な生理応答を誘発する単独の匂い分子群を発見した。これらの先天的な恐怖反応を誘発する匂い分子の化学構造を比較解析し、特定の化学構造を持つ匂い分子が、特定の構造を持つ嗅覚受容体に結合することで、すくみ行動や恐怖に伴う生理応答が先天的に誘発される可能性を明らかにした。 特定の嗅覚受容体遺伝子群を発現する嗅細胞を特異的に除去や機能阻害した遺伝子改変マウスを作成した。嗅覚神経回路は背側経路と腹側経路とに分類できる。私たちは、本研究以前に、背側または腹側経路特異的にCre組換え酵素を発現するマウスを作成した。これらCre発現マウスと、Cre組換え酵素依存的にジフテリア毒素A断片を発現するマウス、または、CNG A2チャネルをコンディショナルノックアウトするマウスを掛け合わせた。 先天的な恐怖行動を誘発する匂い分子に対応する特異的な嗅覚受容体遺伝子候補のスクリーニングを実施した。マウスのゲノムに存在する全嗅覚受容体遺伝子を発現ベクターにクローニングした。続いて、HEK293 cellに嗅覚受容体特異的なシャペロン分子を共発現させたHana cellを用いた培養細胞系でスクリーニング系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先天的な恐怖情動を誘発する匂い分子に対する応答は、これまでFreezingやストレスホルモンの分泌量によって計測されてきた。これに対して、同時期に実施した他研究によって様々な生理指標を用いることで、先天的な恐怖情動を後天的な恐怖情動とは区別して計測することや、先天的な恐怖情動を複数の種類に分類することが初めて可能になった。これらの成果を受けて、恐怖応答を本研究開始時点よりも正確に分類することが可能になり、嗅覚受容体遺伝子の特異性と行動の特異性との相関関係の解析の精度が上昇した。
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Strategy for Future Research Activity |
匂い分子-嗅覚受容体-情動や行動の3者の対応関係を結ぶ神経メカニズムの解明を目指した研究を実施する。本研突やその他の研究の成果により、特定の匂い分子を用いることで、量的や質的に異なる恐怖情動を誘発することが可能になった。匂い分子の感知から恐怖に伴う生理応答の発現に至るまでの脳の情報処理プロセスの研究を実施する。
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