2012 Fiscal Year Annual Research Report
シクリッドとメダカを用いた生殖隔離の分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
23687011
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
深町 昌司 日本女子大学, 理学部, 准教授 (20323446)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | メダカ / シクリッド / 性選択 / 種分化 / ドーパミン / 体色 |
Research Abstract |
1.メダカドーパミン受容体(DR)過剰発現コンストラクトの作成 RT-PCRによりDRのcDNAを増幅し、ベータアクチンプロモーターの下流に連結することで、過剰発現コンストラクトを作成した。当初は平滑末端化とライゲーション反応により作成を試みていたが、失敗が続いたため、InvitrogenのGeneArtを用いる方法に切りかえた結果、一発で連結することが出来た。同じ方法を用いて、変異型DR過剰発現コンストラクトも作成する計画である。 2.TILLING法によるメダカDRミスセンス変異系統の作出 DRの第一、第二、第四エキソンにプライマーを設計し、ゲノミックPCRによりTILLINGライブラリのスクリーニングを行った結果、7つのミスセンス変異を同定した。このうち特に強く保存されているアミノ酸のミスセンス変異3種に関し、凍結精子を用いて人工授精を行って系統化を行った。また、アウトクロスを2回ほど行い、ゲノム中から無関係な変異を取り除く作業を行った。アウトクロスはあと2,3回繰り返し、その後インクロスによって変異をホモ化し、表現型を解析する。 3.TALEN法によるメダカDRノックアウト系統の作出 京都大学の共同研究者に依頼し、DR遺伝子ノックアウト用のTALENコンストラクトを作成してもらった。マイクロインジェクション法によりこのコンストラクトのmRNAを導入したモザイクの個体を現在育成中で、これらの個体中で実際にDR遺伝子に変異が起きていることも確認した。これらの魚の性成熟後に子を得ることで、DRノックアウト系統として確立し、表現型を解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シクリッドの体色二型に関わる有力な候補遺伝子を同定し、この遺伝子の機能をメダカで解析するための準備が着実に進んでいる。 過剰発現に関しては、DR過剰発現コンストラクトが既に完成したので、あとは遺伝子導入と系統化を行うだけであり、早ければ半年で結果を出せると考えている。変異型DR過剰発現コンストラクトの作成もGeneArt法を用いることで問題無く出来るはずである。 ノックアウトに関しては、TILLING法において3つのエキソンをスクリーニングしたにも関わらずナンセンス変異を得ることが出来なかったため、ミスセンス変異だけで確実な機能解析が出来るかどうかやや不安であったが、近年確立されたTALEN法がメダカでも極めて有効に機能するという報告を受け、早速共同研究を申し込んだところ、実際にDR遺伝子のフレームシフト変異を得ることが出来そうである。TILLINGとTALENによる遺伝子破壊系統のどちらも、やはりあと半年程度で系統化できると思われるため、本研究計画はおおむね順調に進展していると考える。 唯一の不安材料としては、「DRがシクリッドの体色二型を引き起こす遺伝子である」との予測自体が誤りであり、メダカにおけるこれらのDR遺伝子改変系統に体色の変化が現れない可能性があることだが、ポジショナルクローニングという実験の性質上、これは不可避であると考える。ただし、研究代表者は過去に4度のポジショナルクローニング成功経験を持つことを申し添えたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1.昨年度までにDRの過剰発現コンストラクトを作成したので、今年度はこれを野生型メダカの受精卵にマイクロインジェクション法により導入する。このコンストラクトからは、IRESによってGFPが弱発現するため、導入に成功したトランスジェニック個体は胚の蛍光観察により容易に判別できる。これらを系統化し、体色への影響を評価する。 2.変異型DRの過剰発現コンストラクトを1と同様に作成し、トランスジェニック系統を作出する。1と2の体色を比較することで、アミノ酸置換による受容体機能への影響を検証できる。 3.TILLING法によって得たDR遺伝子のミスセンス変異3系統のアウトクロスを繰り返すことによって、DR遺伝子以外における突然変異をゲノムから排除する。十分なアウトクロス(~5世代)を行った後、インクロスを行って変異をホモ化し、体色への影響を調べる。また、TALEN法によって得たDR遺伝子のフレームシフト変異体の系統化も行い、同じ変異を持つヘテロ系統をインクロスすることで変異をホモ化し、同様に体色への影響を調べる。ミスセンス変異体では、必ずしも表現型に影響が現れない可能性があるが、フレームシフト変異体は完全なノックアウトであるため確実にDRの機能を抑制することが出来ているはずである。このことは、逆に表現型が強すぎて致死、あるいは生存力に深刻な影響を及ぼす危険性もあるため、TILLINGとTALENどちらの変異体も同様に重要である。 4.1~3で作出した遺伝子改変メダカを用いて、シクリッドで観察される色違い集団間の排他的な配偶選択が再現されるかどうか検証する。既に実験系自体は確立しており(Fukamachi et al. 2009 BMC Biol)、系統が作出されさえすれば、この実験に技術的困難は伴わない。
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