2011 Fiscal Year Annual Research Report
フェノール性物質を介した樹木根の根圏形成機構の解明
Project/Area Number |
23688017
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大澤 裕樹 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (90401182)
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Keywords | フラボノイド / プロアントシアジニン / ボーダーセル / カテキン / 土壌微生物 / 樹木根 |
Research Abstract |
根冠は脱落細胞の集合体であり、構造上の物理障壁として根の頂端分裂組織を保護する。しかしながら、根冠の細胞構成成分の役割の詳細はほとんどわかっていない。当該年度の本研究により、プロアントシアジニンを充填した境界様細胞が木本種であるアカシアマンギウム根端周囲に散布されることを見出した。組織細胞学的解析により、プロアントシアジニンは発芽2日後にはじめて幼根の側根冠、表皮、皮層を含む外部表層組織に集積することがわかった。これらの中で細胞分裂域の側根冠細胞の内層が最もプロアントシアジニン集積性を示した。表皮や皮層では、プロアントシアジニンは細胞移行域にて増加し、肥大化する液胞ではなく細胞質に局在する傾向を示した。脱落側根冠および根端は、10以上の構成単位から構成される4-A-8型結合型の重合性プロアントシアジニンを含んだ。脱落細胞の速やかな細胞活性の消失にもよらず、剥離した境界様細胞におけるプロアントシアジニンは最低3日以上細胞外への流出の少ない状態を維持しながら、成熟根の周囲を覆って存在した。レタス根を用いたバイオアッセイの結果は根由来プロアントシアジニンの他感作用を支持しなかった。一方、病原性リゾビウムリゾゲネス菌の根の侵入および増殖が、ダイズ根に比べてマンギウム根で遅くなる傾向が認められた。これらの結果はプロアントシアジニンがマンギウム根成長において表層ならびに脱落した境界様細胞で保護的な役割を果たす可能性を支持する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アカシアマンギウムの境界様細胞に集積するフェノール性物質を解析することで、脱落細胞が機能性物質を根圏に輸送するキャリアとしての役割を担うことを世界で初めて明らかにすることができた。さらに、病原性土壌微生物の定着増殖の制御にプロアントシアジニンが関与する可能性を明らかにすることができた。これらの発見はそれぞれ当初計画をさらに発展させて初めて得られた成果であり、計画ならびに進捗の妥当性を示していると考える。当初計画していた根圏土壌のゲノム解析が抽出条件の再検討が必要となったため未完了となっている。これについて平成25年度に再度抽出条件の検討を行い、データの妥当性を評価する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
<PA耐性菌の選抜> 土壌中のPAの動態に関与する主要生物因子を同定するため、PAを唯一の炭素源とする選択培地を用いてPAを利用する耐性菌を選抜し同定を行う。PAに対する濃度依存性やPA構成の違いに対する基質特異性を評価する。 <線虫に対するPAの影響評価> 根を介したマツノザイセンチュウの移動の有無とPAの関与を明らかにするため、感染木デトリタスを土壌にマルチした場合の線虫の移動特性をPA集積程度の異なるマツ種、系統間で比較する。線虫の組織成分を蛍光ラベルした組織化学染色法によって根における線虫の有無や空間分布を測定する。また、マツの抵抗性品種と感受性品種の値におけるPA組成を解析する。センチュウに対してPA集積を分ける切除根をそれぞれ投与し、食餌性を評価する。 <土壌動物に対するPAの影響試験> 土壌動物による根食害性に対するPAの影響を明らかにするため、PA集積性種と非集積性種の実生に対してコガネムシ幼虫を投与し、地上部成長および切断根の本数からPAの効果を評価する。また傷害に対するPAの効果を明らかにするため、食害前後の根PAの酸化状態をLC/MS分析による構造解析から推定し、根の酸化活性を組織化学染色法により分析し、傷害に対するPAの抗酸化特性を比較する。同様に、PAの忌避効果を明らかにするため、PA集積性の異なる種を混植した場合の食害を単植の場合と比較する。 <PAの他感作用評価> PAによる他感作用が樹木根を介して成立するか明らかにするため、限定空間の根箱内にてPA集積根と非集積根を並置させて生育させた場合の根の成長特性を比較する。また、他感作用が認められる場合、抽出したPAのサイズ分画により他感作用の有効成分を同定する。また、複数のPA集積性種と非集積種を組み合わせた混植試験から、根の生育に影響するPAと植物種間の関係を明らかにする。
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Research Products
(7 results)