2011 Fiscal Year Annual Research Report
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23689024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 康之 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教 (50553434)
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Keywords | タンデムリピート / 抗原 / 寄生虫 / 液性免疫 / 免疫回避 |
Research Abstract |
1本の鞭毛を持つ原生生物からなる分類群であるトリパノソーマ科に属する原虫は、比較的近い共通の祖先を持つことから形態学的特徴を含め様々な共通点がある一方、その感染によって引き起こされる病態および宿主免疫回避機構は全く異なる。眠り病を引き起こすTrypanosomabruceiは細胞外寄生体でありその感染防御に液性免疫が関与しているのに対して、マクロファージ内寄生体のリーシュマニア原虫にとって液性免疫はむしろ都合が良い。近年の比較ゲノム解析によりこの両者は高い相同性を持っており、種特異的遺伝子はそれぞれが異なる環境へ適応変化する過程で比較的新しく獲得されたものと考えられる。本年度は、これら2種を含めたトリパノソーマ科原虫におけるTR遺伝子の相同性やコードされる蛋白の局在について解析を行った。結果、反復モチーフはこれら原虫間で異なっており、TR遺伝子が共通の祖先によって獲得されたものでなくそれぞれの進化の過程で獲得されたものだと考えられた。また、リーシュマニア原虫TR蛋白の多くが細胞表面シグナルを有するのに対してT.bruceiのTR蛋白は細胞内に局在することがあきらかになり、液性免疫がTR蛋白の選択に影響することが示唆された。実際、哺乳類に感染性のない原虫においてはTR遺伝子群を欠損した。自由生活性のキネトプラスト目原虫においても、ヒト寄生性トリパノソーマ原虫に特徴的な巨大TR遺伝子が欠損しており、これらの結果はTR遺伝子、特に巨大TR遺伝子が高等動物への寄生適応に必要であったことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は計画どおり、寄生メカニズムの異なるトリパノソーマ科原虫についてTR遺伝子の比較解析を行った。結果として、形態学的に似たこれら原虫間でTR遺伝子のレパートリーは異なっており、それぞれが異なる環境へ適応変化する過程で比較的新しく獲得されたものと示唆された。哺乳類に感染性の無い原虫や自由生活性の原虫には巨大TR遺伝子がほとんどないことや、哺乳類感染性の原虫でも抗体免疫への感受性の違いとTR蛋白の局在に関連が見られることから、原虫のTR遺伝子群形成には液性免疫の影響があったと示唆された。これらの結果は本年度計画のとおりであり、よって本研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、なぜ繰返し配列を持つことが強い抗原性に繋がるのかを分子生物学・免疫学的手法を用いて明らかにしていく。そのため、リピート回数が免疫原性に与える影響についてマウスを用いた実験で明らかにするとともに、直接のエフェクター細胞であるB細胞の活性化機構についてB cell receptor(BCR)の架橋や他の活性化シグナルの関与についてin vitro実験系を用いて解析を行う。また、他のアクセサリー細胞、つまりヘルパーT細胞の関与についてもin vitro実験系やノックアウトマウスを用いた実験系を用いて解析する。また、寄生虫におけるTR遺伝子の獲得について進化遺伝学的な観点から明らかにするため、24年度以降もトリパノソーマ科原虫TR蛋白の比較解析を引き続き行う。これら原虫のTR遺伝子について比較解析することによって進化の過程のどの段階で獲得されたものなのか、またその獲得に免疫学的要素は影響してきたのかについて明らかにしていく。
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