2011 Fiscal Year Annual Research Report
乾癬病変のエピジェネティック制御機構解明による新規治療戦略の開発
Project/Area Number |
23689054
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 靖 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (10567754)
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Keywords | 皮膚病理学 / エピジェネティクス / ケミカルバイオロジー |
Research Abstract |
近年、様々な疾患で、クロマチン修飾などのエピジェネティクス異常が疾患形成に重要な役割を果たすことが判明している。乾癬病変での表皮ケラチノサイトにおけるエピジェネティクスの変化については、未だ殆ど解明されていない。転写活性化因子Lens epithelium delived growth factor (LEDGF/DFS70)は、転写が活性化したゲノム領域に結合することで知られる、転写活性化因子である。 LEDGFはそのC末に位置するPWWPドメインで、特定のヒストン修飾モチーフを認識する事が予想される。ゲノム上でLEDGFは、クロマチン修飾複合体や、細胞周期調節因子をリクルートし、エピジェネティックな転写調節、および細胞増殖に関与するため、乾癬病変の形成に関わっている可能性が考えられる。 我々は先に、LEDGFは皮膚表皮では基底層を除き核外に局在するが、乾癬表皮内では特徴的な核内局在を示し、さらにはLEDGFの過剰発現は、表皮角化細胞に乾癬類似の表現型の変化をもたらす事を示した。今回、新たに、培養表皮細胞内においては、LEDGFは血清飢餓により誘導されたG0/G1期には核外に局在するが、血清刺激を与えるとMEK、PI3Kなどの増殖シグナル依存性に核内に移行する事を確認した。また、LEDGFのPWWPドメインはトリメチル化したH3K36に結合する事が判明した。クロマチン免疫沈降法の結果からは、LEDGFの過剰活性により転写が亢進した乾癬関連遺伝子のゲノム上で、H3K4のトリメチル化が亢進する傾向が認められた。これらの結果はoncogeneとしてのLEDGFの性格、およびその予測されるエピジェネティックな機能と一致し、乾癬病変の形成にLEDGFが寄与している可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LEDGFのエピジェネティックな転写制御機能を、in vitroの実験で検討し、KCが乾癬様のフェノタイプを形成する機構を解明するという目的に沿って実験を行った。その過程で、LEDGFがクロマチン上のH3K36me36を認識し、クロマチン修飾因子をリクルートする事で、更なる修飾を誘導し、標的遺伝子の転写活性を維持する事が示唆された。また、LEDGFの活性が、その細胞内局在の制御により行われている事を示し、細胞外の増殖シグナルを受けて、MEK、PI3K等のタンパク質リン酸化酵素依存性に制御されている事を確認した。この発見は現在提唱されている乾癬表皮形成の病理メカニズムとも整合的である。これらは、LEDGFが乾癬病変の形成に寄与するという、当初の仮説を支持する結果であり、今後の他の実験系の結果と併せて、乾癬の病理機序の理解、新たな治療標的の開発につながる、重要な成果である。また、次年度以降の研究に用いる表皮特異的LEDGF過剰発現マウスの作成を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)LEDGFをケラチンK5プロモーター下で構成的に過剰発現するトランスジェニックマウス を作製している。このマウスでLEDGFの過剰発現が表皮ケラチノサイトで起きている事を確認し、a)テープによるストリッピング、b) 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA)の塗布、c)リコンビナントIL-22の皮内投与、などの各種刺激を皮膚に与える事で乾癬様病変の誘発を行う。組織学的、免疫組織学的な検討と、遺伝子発現パターンの解析から、乾癬モデルとしての妥当性を検証する。 2) LEDGF-HaCaT はIL-6を過剰産生するため、培養液のIL-6を測定し、細胞生存数と比較する事で、低分子化合物 のスクリーニングを行う。LEDGFの過剰発現によって惹起されるKCの乾癬様変化を回復しうる低分子化合物を探索するため、 複数の化合物ライブラリーを準備する。既知のクロマチン修飾酵素阻害剤のライブラリーや、米国FDAで認可された化合物を主体とした既知化合物のライブラリー、公的機関より入手可能な大規模低分子化合物ライブラリーをスクリーニングし、新たな治療薬のリードとなりうる化合物を探索する。
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