2012 Fiscal Year Research-status Report
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23700009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河村 彰星 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (20600117)
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Keywords | 計算量 / 計算可能解析学 |
Research Abstract |
理論基盤の整備とその応用の両面において、初年度の研究を継続して深化・発展させる一定の成果を得た。 理論基盤に関わる部分としては、計算可能解析学の表現理論を計算量において展開する枠組についての研究を継続した。特に欧洲を中心とする世界的プロジェクトCOMPUTALの国際会議で招待講演の機会を得て、この枠組の既知の方法と課題について議論したことがその後の進展に役立った。これをもとに従来のパラメタ計算量との関係や、高階の対象への拡張などについて研究を進めており、部分的な結果は年度の後半に幾つか発表した。また所属研究室の学生とも協力してこの枠組を多項式以下の小さい計算量、即ち省記憶領域計算や高速並列化計算の議論へ精密化する結果を得た。 応用の面では、前年度に開始していた滑らかな微分方程式の計算量解析を整備して発表したほか、新たにドイツの研究グループとの共同で、解析函数に近いジェブレの級と呼ばれる函数について、その近さを表す指数が計算量に密接に関係していることを明らかにする結果を得た。これは滑らかさだけでは最悪時の計算量を下げることにはならないという以前からの結果に対比され、計算量に何が影響を及ぼすのか正確に捉えることに近づく成果といえる。 更に具体的な応用として、ラプラス方程式などの物理的に意味をもつ方程式の複雑さを調べ、幾つかの予備的な結果を得た。これは従来から得られていた一般的な計算量下界に対して、より精密に理解することにつながる研究であり、本年度の進展をもとに次年度も継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初より研究の目標としては理論基盤の整備とその応用の両面から進めることとしているが、その両方においてそれぞれ成果があった。 まず本研究の初年度の結果をきっかけとして、一般的な高階計算量に対する関心が多くの研究者の間でも高まっているおり、上述の理論的進展はそのような中での海外研究者との協力によって得られたものである。また応用では滑らかな微分方程式、ジェブレの級の上での計算、幾何的計画問題など幾つかの具体的問題で進展を見た。以上を合せて、計算可能解析の専門的な国際会議で発表三件を通じて議論を深めたほか、様々な周辺分野でも応用を探るため国内の数学系・計算機科学系の研究集会でもそれぞれの分野向けに関連する発表を頻繁に行っている。広い分野の国際会議での発表二件のほか、次年度に論文にまとめる予定のものもあり、理論構築とその実際の応用の両面で十分に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
理論構築の面からは、本研究の初年度の結果やそれを発展させた高階計算量の手法を用いて、計算可能解析のなるべく多くの対象をうまく包括する形で計算量を論ずる枠組の深化を目指す。 微分方程式に関しては、非常に一般的な問題設定に対しては計算量の大枠がこれまでの研究で明らかになってきたので、応用上重要な具体的問題に研究の中心を移してゆく。物理的な意味をもつ微分方程式、力学系の問題に材を取る。最悪の場合の困難性を示すだけでなく、どのような条件下で効率よく解けるかにも重点を置き、理論的興味にとどまらず実際の問題に影響力をもつような成果を目指す。 また別の応用として、計算量と算法ランダム性との相関についても研究を進める。これは計算可能性については近年急速に発展してきた話題であり、計算量についての理解も進展することが期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
論文発表に関る費用が当初の想定よりも安価ないし不要であったことや、別件の研究での滞在との組合せが生じたため旅費が予定より少くなったこと等により、研究費に余裕が生じたため次年度に使うこととした。次年度は最終年度であるため研究全体の出口として、国際会議での成果発表や、具体的な問題解決に向けて応用分野の研究者との連携を加速するための費用に充てる。
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