2012 Fiscal Year Research-status Report
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23700014
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
藤原 洋志 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80434893)
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Keywords | アルゴリズム / 最適化 / オンライン最適化 |
Research Abstract |
(1) スキーレンタル問題は、将来何度スキーに行くか分からない状況下で、スキー板のレンタル・購入の選択によりコストを最小化する問題である。その拡張の一つである多状態スキーレンタル問題は、「レンタル」「購入」以外の中間オプションを許す問題であり、例えば省電力など多くの実世界の問題を含んだ汎用的な枠組みである。本問題において、プレーヤーの戦略はオプション間の遷移を表す決定木とみなすことができ、最適戦略の導出は「競合比」を目的関数とする木生成問題である。 我々は、非加算無限個の中間オプションを持つ問題の定式化を与え、最適戦略の導出を行った。この結果について、国際会議 AAAC2012 で発表した。またこの結果と、有限個の中間オプションを持つ問題に関する最新結果とを交えた講演を2件(2件とも招待講演)行っている。 (2) スケジューリング問題は、実用と理論の両面において極めて重要な問題である。我々は複数の均一な機械上において、ジョブ完了時刻の和の最小化を目的とするモデルを取り上げる。ここで各ジョブは前触れなく到着し、それぞれ到着時にはじめてその処理時間が明らかになるものとする。 本モデルに対する単純かつ実用的なアルゴリズムとして、それぞれの機械につき、未完了のジョブのうち残りの処理時間が短いものから実行する SRPT アルゴリズムがよく用いられる。しかしながらその理論的性能については長い間知られていなかった。Chungらは2010年に、この SRPT アルゴリズムの競合比が1.857 以下であることを示した。我々はこれを改良し、競合比が 1.792 以下であることを証明した。我々の解析は関数解析に基づいた手法であり、アルゴリズム理論における発展性に富んでいる。結果をまとめ、学術雑誌 Information Processing Letters に論文を掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1) 我々は多状態スキーレンタル問題に対し、非加算無限個の中間オプションを持つ問題の定式化の一つを与えた上で、最適戦略の導出を行った。多状態スキーレンタル問題は省電力など多くの実世界の問題を含んだ汎用的な枠組みであり、多くの研究者が取り組んでいる。しかし従来はすべて、中間オプションの数を任意の有限個と仮定する研究であった。非加算無限個の中間オプションを扱う研究は、我々が初めてである。 非加算無限個の中間オプションを持つ多状態スキーレンタル問題の理論的価値は、有限個の中間オプションと戦略の双方を変数と見なした場合の下界と一致する最適目的関数値を得ることにある。加えて、応用の観点からも非常に有意義である。例えば、自動車への普及が進んでいる無段変速機の効率化や、また近年注目を集める潮力発電におけるプロペラピッチ制御への応用が考えられる。 (2) 我々はジョブ完了時刻の和の最小化を目的とする SRPT スケジューリングアルゴリズムの競合比が 1.792 以下であることを証明した。これは長年未解決であった問題に対する結果をさらに洗練させたものである。しかし本成果の真の重要性は、アルゴリズムの理論的性能評価そのものよりも、我々が用いた関数最適化の手法にあるといっていい。 我々の成果の元となったChungらの2010年の論文は、トップカンファレンスの一つである国際会議 SODA で発表されたものである。我々は、トップカンファレンスの論文にも関数最適化の議論を詰め切れていないものがあることが明らかにした。このことはとりもなおさず、アルゴリズムの性能解析全般において関数最適化の活躍の場が大いに残されていることを示唆している。我々の成果は、関数最適化がアルゴリズムの性能解析において如何に有用であるかを知らしめるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 多状態スキーレンタル問題に関して、任意のインスタンスに対する戦略の改良限界(いわゆる競合比の下界)を明らかにする。Damaschke は任意の状態数を許す場合について競合比の下界 3.61 を示した。Damaschke の論文においては、その主結果はインスタンスの構成法や解析をひとまとめにして定理の証明として記述している。ところがこれを精査すると、実は、状態数を指定する場合において、プレーヤーにとり都合の悪いインスタンスの構成法を示唆していることが分かる。このアイデアを基に、状態数を指定する場合の戦略の改良限界を示す。さらに、この手法から得られる改良限界は、いわゆる競合比の上界と一致するのではないかと予想している。この予想についても併せて解明する。 (2) 我々は既に、一般化ハフマン木問題が、入力として与えられる各関数が0または1のみを取りうる関数であってもNP困難であることを証明している。他方、各関数が凸かつ非減少である場合にO(n^2 log n)時間で計算可能であることも示している。我々は、この他にどのような入力について多項式時間計算可能なのかを究明する。具体的に、我々が注目するのは非減少2値関数である。これは、ある深さ以上に葉を置く場合に一定のコストが発生するということを表し、応用上も有意義である。 同時に、一般化ハフマン木問題の可視化ツールの開発を行う。この問題はWeb階層構造の最適化を含む問題であるから、ツールに対しては実用面からの期待も大きい。前述のように本問題は一般にはNP困難であり、効率の良い解法がないと信じられている。近年は、グラフクラスライブラリや整数計画のフリーソフトパッケージなどが開発されており、それらを適宜利用することにより可視化ツールの開発を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
得られた結果を順次論文にまとめ、国際会議や学会にて発表するための旅費を研究費から支出する。具体的には、評価の高い国際会議である、SODA(主に北米にて開催), ESA(主に欧州にて開催), ICALP(主に欧州にて開催), ISAAC(主にアジアにて開催), COCOON(主にアジアにて開催), STACS(次年度はフランスにて開催)などでの発表を行う。学会発表の場としては、LAシンポジウム、情報処理学会アルゴリズム研究会、電子情報通信学会コンピュテーション研究会、およびオペレーションズリサーチ学会を予定している。さらに、研究打ち合わせが必要な場合は適宜研究費から支出する。雑誌の別刷りについても研究費から支出する。掲載料が必要な学術雑誌(例えばオンラインジャーナル MDPI Algorithmsなど)に論文を投稿する際は、掲載料を研究費から支出する。 多状態スキーレンタル問題の競合比の下界を明らかにする計画であるが、これをさらに進めて一致する上下界を求めようとすると、非線形計画問題を解くことが必要である。これを遂行するため、NUOPTやMathematicaなどのパッケージを購入して行う。Mathematicaについては有償サポートの費用も研究費から支出する。また、非線形計画問題の求解を論文執筆用パソコンの上で動作させると膨大なリソースを消費し支障をきたすので、計算については専用のパソコンを購入しその上で行う。 一般化ハフマン木問題の最適解の視覚化ツールについては、グラフクラスライブラリや整数計画のフリーソフトパッケージを組み込む予定であるため、これら既存ソフトウェアの仕様を習得した上での開発となる。開発の一部を委託する場合があり、その際は謝金を研究費から支出する。
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Research Products
(8 results)