2011 Fiscal Year Research-status Report
計算困難問題に対する厳密指数時間アルゴリズムの研究
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23700015
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
玉置 卓 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40432413)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 計算量理論 / アルゴリズム理論 / 厳密アルゴリズム / 充足可能性問題 / 計算困難性 / 彩色問題 / グラフ理論 / 証明の複雑さ |
Research Abstract |
実用上重要な組合せ最適化問題の多くは,NP困難と呼ばれる計算困難なクラスに属している.これらの問題に対する既知の厳密アルゴリズムは,全て指数時間アルゴリズムであり,実用上の観点からは使用に耐えないことが多かった.しかし,近年の計算機の高速化とアルゴリズム設計における理論の発展により,厳密アルゴリズムが適用可能な場合が増えており,より高速な厳密アルゴリズムの設計が要請されている.本研究では,計算困難な最適化問題の代表として,論理式の充足可能性問題とグラフの彩色可能性問題を取り上げ,高速なアルゴリズムの設計と解析,および高速化の限界に関する研究を行う.本年度の主要な成果から以下の2結果について述べる.(1) 線形計画法による幅1の制約充足問題に対する頑健なアルゴリズム: 最大制約充足問題とは,充足される制約の数を最大化する割当てを求める最適化問題である.頑健なアルゴリズムは,ほとんど全て (例えば99パーセント) の制約を充足できるような例題に対し,最適解に近い (例えば98パーセント充足する) 割当てを出力する.本研究では,幅1の制約充足問題という広汎な制約充足問題のクラスに対し,線形計画法による頑健なアルゴリズムを与えた.また,ある種の線形計画法により頑健なアルゴリズムを構築できることと,制約充足問題が幅1という性質を満たすことが同値であることを示した.(2) 2変数完全基底上の論理式に対するSATアルゴリズムと平均計算量の下界: 論理式はファンアウト数が1であるような論理回路のことである.本研究では,回路で使用できる素子として,任意の2変数論理関数を許した論理式に対し,充足可能性を判定する厳密指数時間アルゴリズムを与えた.さらに,応用として,線形サイズの論理式がある明示的な関数を近似することが困難であることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 一定の成果が見込める目標として挙げた「個々の問題に対するアルゴリズムの設計・計算時間改良」及び (2) 挑戦的な目標としてあげた「広範な問題に適用可能なアルゴリズム設計・解析の手法開発」を達成している.また,(3)「厳密アルゴリズムと近似アルゴリズムの関係」「厳密アルゴリズムと計算限界の関係」という,当初計画の目標にはなかった興味深く重要な成果が得られている.(1)について: 3-SATとは,与えられた(節の長さが高々3の)和積標準形の論理式を充足する変数割り当てが存在するかどうかを判定する問題である.SATは最初にNP完全性が示された問題であり,厳密アルゴリズム研究における最重要テーマのひとつである.本研究では3-SATに対する1.3303のn乗 時間の決定性アルゴリズムを与えた.これはMoser,Schederによる現在最速のアルゴリズムの計算時間1.3334のn乗 を更新する結果である.我々のアルゴリズムはHofmeisterらの乱択アルゴリズムを完全に脱乱択化することで得られた.(2)について: 線形計画法による幅1の制約充足問題に対する頑健なアルゴリズムは,制約充足問題が幅1という条件さえ満たしていれば,アルゴリズムを変更することなく正しく効率よく動作する.幅1という条件はホーン論理式を含む広い制約充足問題のクラスであり,それらに統一的なアルゴリズムを与えることが出来た.(3)について: 線形計画法による幅1の制約充足問題に対する頑健なアルゴリズムは,厳密アルゴリズムの拡張としての近似アルゴリズムになっている.また,2変数完全基底上の論理式に対するSATアルゴリズムことで,一般に難しい問題であると考えられている回路計算量の下界を示すことに成功した.このように,厳密アルゴリズムの分野に限らず関連分野にも貢献している.
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Strategy for Future Research Activity |
(1) より有用性のあるアルゴリズム設計現在理論的に最高速とされるアルゴリズムの一部には,入力サイズの指数領域を使用するもの,アルゴリズムの記述に途方もない数の場合分けを含むもの,などがある. 現実の計算機のメモリアクセスの遅延や,実装時のプログラミングの負担を考えると,望ましいアルゴリズムとは言い難い.本研究の主な目標は計算時間を可能な限り下げることであるが,より有用性のあるアルゴリズム設計に向け,「指数領域を使用するアルゴリズムの計算領域削減」「場合分けを多数含むアルゴリズムの単純化」に取り組む.(2) 確率的・代数的なアプローチアルゴリズム設計の分野では,確率的手法が標準的に用いられているが,厳密アルゴリズムについては,その威力を十分に活用しているものは極わずかしかない. 例えば3-SATの計算時間の世界記録は,乱択(確率)アルゴリズムによって達成されている. これらの知見を生かして他の問題にも挑戦する. 代数的手法は近年急激に発達しており,それまで不可能と考えられていた高速なアルゴリズム (ハミルトン閉路問題,ホログラフィックアルゴリズム) が可能になった. 既存の手法を整理するとともに,新たな手法の開発と未解決問題への適用を試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1) 旅費本年度10月には,アメリカにおいて開催される国際会議FOCS 2012に参加し,この分野の一流の研究者と交流することで新しい情報やアイデアの収集を行う.11月にドイツで開催されるDagstuhlセミナーにも参加し,厳密アルゴリズムと近似アルゴリズムのトップ研究者と交流する.指数時間アルゴリズムに関する国際会議IPEC 2012に参加し,SATアルゴリズムについて成果発表を行う.その他,機会がある限り研究会に参加し情報の収集を行う.また,共同研究者との交流を積極的に行う.成果が得られ次第,国際会議または学術論文に投稿し公表を行う.(2) 設備備品・消耗品近年,アルゴリズムの設計・解析の手法は高度になってきており,従来の初等的な離散数学では解くのが困難な問題を,数学・物理のさまざまな手法を用いて解決することが多くなってきている.そのため随時,アルゴリズム理論,計算量理論に関する書籍を購入し,有用な手法の習得を行う.
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Research Products
(8 results)