2012 Fiscal Year Research-status Report
計算困難問題に対する厳密指数時間アルゴリズムの研究
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23700015
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
玉置 卓 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40432413)
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Keywords | 計算量理論 / アルゴリズム理論 / 厳密アルゴリズム / 充足可能性問題 / 計算困難性 / 彩色問題 / グラフ理論 / 証明の複雑さ |
Research Abstract |
実用上重要な組合せ最適化問題の多くは,NP困難と呼ばれる計算困難なクラスに属している.これらの問題に対する既知の厳密アルゴリズムは,全て指数時間アルゴリズムであり,実用上の観点からは使用に耐えないことが多かった.しかし,近年の計算機の高速化とアルゴリズム設計における理論の発展により,厳密アルゴリズムが適用可能な場合が増えており,より高速な厳密アルゴリズムの設計が要請されている.本研究では,計算困難な最適化問題の代表として,論理式の充足可能性問題とグラフの彩色可能性問題を取り上げ,高速なアルゴリズムの設計と解析,および高速化の限界に関する研究を行う.本年度の主要な成果から以下の2結果について述べる. (1) 時相制約充足問題に対する頑健なアルゴリズム: 最大制約充足問題とは,充足される制約の数を最大化する割当てを求める最適化問題である.頑健なアルゴリズムは,ほとんど全て (例えば99パーセント) の制約を充足できるような例題に対し,最適解に近い (例えば98パーセント充足する) 割当てを出力する.本研究では,時相制約充足問題という広汎な制約充足問題のクラスに対し,半正定値計画法による頑健な多項式時間アルゴリズムを与えた.また,頑健な多項式時間アルゴリズムを構築できることと,時相制約充足問題がHorn-=-CNF式で表現できることが同値であることを示した. (2) 線形サイズ和積標準形論理式の最大充足問題に対する指数時間アルゴリズム: 本研究では,節の数が変数の数の高々定数倍である和積標準形論理式の最大充足問題に対する指数時間多項式領域の厳密アルゴリズムを与えた.このアルゴリズムは自明な計算時間である2のn乗より指数的に高速に動作する.また,既存の最速アルゴリズムが指数領域を必要としたのに対し,我々のアルゴリズムは多項式領域しか使用しない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 一定の成果が見込める目標として挙げた「個々の問題に対するアルゴリズムの設計・計算時間改良」「指数領域を使用するアルゴリズムの計算領域削減」,および (2) 挑戦的な目標として挙げた「広範な問題に適用可能なアルゴリズム設計・解析の手法開発」「計算時間の下界解析」を達成している. (1)について: 和積形論理式の最大充足問題に対する多項式領域の非自明に高速なアルゴリズムが存在するか,という問いは厳密アルゴリズムにおける重要な未解決問題であった.本研究では,線形サイズの和積形論理式という重要な部分クラスに対して,肯定的な解決を与えた.また,線形サイズに限らず,ある程度サイズが抑えられている場合については,非自明なアルゴリズムが設計できるという見通しを得て,現在厳密な解析を行っている最中である. (2)について: 半正定値計画法による時相制約充足問題に対する頑健なアルゴリズムは,Horn-=-CNF式で表現できるという条件さえ満たしていれば,アルゴリズムを変更することなく正しく効率よく動作する.Horn-=-CNF式で表現できるという条件は,相関クラスタリング問題を含む広い制約充足問題のクラスが満たしており,それらに統一的なアルゴリズムを与えることが出来た.また,Horn-=-CNF式で表現できない時相制約充足問題に対してはどんな多項式時間アルゴリズムも頑健でない,という計算時間の下界も示している.
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 確率的・代数的なアプローチ アルゴリズム設計の分野では,確率的手法が標準的に用いられているが,厳密アルゴリズムについては,その威力を十分に活用しているものは極わずかしかない.例えば3-SATの計算時間の世界記録は,乱択(確率)アルゴリズムによって達成されている.これらの知見を生かして他の問題にも挑戦する. 代数的手法は近年急激に発達しており,それまで不可能と考えられていた高速なアルゴリズム (ハミルトン閉路問題,ホログラフィックアルゴリズム) が可能になった. 既存の手法を整理するとともに,新たな手法の開発と未解決問題への適用を試みる. (2) 代表的な計算困難問題に対する計算時間の下界解析 アルゴリズムをバックトラック型などの代表的なものに限定した場合, これらの問題に対する多項式時間アルゴリズムを与えられないことを示す. 妥当な計算量理論的仮定のもとで, 現在のアルゴリズムがほぼ最適であることを証明する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1) 旅費 本年度7月には,ラトビアにおいて開催される国際会議ICALP 2013に参加し,この分野の一流の研究者と交流することで新しい情報やアイデアの収集を行う.8月にドイツで開催されるDagstuhlセミナーにも参加し,厳密アルゴリズム (SATアルゴリズム) のトップ研究者と交流する.指数時間アルゴリズムに関する国際会議IPEC 2013に参加し,SATアルゴリズムについて成果発表を行う.その他,機会がある限り研究会に参加し情報の収集を行う.また,共同研究者との交流を積極的に行う.成果が得られ次第,国際会議または学術論文に投稿し公表を行う. (2) 設備備品・消耗品 近年,アルゴリズムの設計・解析の手法は高度になってきており,従来の初等的な離散数学では解くのが困難な問題を,数学・物理のさまざまな手法を用いて解決することが多くなってきている.そのため随時,アルゴリズム理論,計算量理論に関する書籍を購入し,有用な手法の習得を行う.
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