2011 Fiscal Year Research-status Report
感情の表出強度に伴う処理能力の評価系確立と脳・内分泌メカニズムの解明
Project/Area Number |
23700253
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
藤澤 隆史 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (90434894)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 感情 / 発達 |
Research Abstract |
課題1:感情表出データベースの作成 劇団に所属する小中学生に3種類の感情(喜び、怒り、悲しみ)を異なるセリフで表出してもらった。また、表出の物理的特徴は性別や発達段階によって大きく異なるため、2グループ(小学生中学年・中学生)20名ずつに表出してもらった。月経周期の影響を避けるため、性別は男性に限定した。データベースの収録数は合計360発話である。課題2a:感情処理能力の定量的評価法の確立(1) 感情表出能力の測定:上記データベースに対し、情報工学的なパターン認識技術を適用し、感情識別システムの開発を行った。その結果、表情では、情動カテゴリーの表情識別を行なった結果、平均93.8%の高い認識率が得られた。次に音声では、上記データベースの音声を用いて、GMM(混合ガウス分布モデル)により、音声の感情得点化プログラムを開発した。感情カテゴリーについて識別実験を行った結果、平均75.0%の識別率が得られ、高い数値を得ることができた。またそれらの評価結果は、人による音声の感情評価とも比較的強い相関を示した。(2) 感情認知能力の測定:上記データベースを用いて、近年,急速な発展を遂げたモーフィング技術を適用し、感情の表出強度が異なる提示刺激を作成し,実験対象者の各感情カテゴリに対する感受性について得点化する感情認知能力の評価プログラムを作成した.その評価プログラムを用い小・中学生を対象に情動認知能力の測定を行い、感情認知能力の発達と性ホルモンの関連性について検討した。その結果、思春期である中学生では性別の効果が見られ、喜びと悲しみの認知能力ににおいて女子は男子よりも高いスコアを示した。このような差は小学生集団では見られなかった。各集団の性ホルモン(唾液中テストステロン)濃度を測定し、テストステロンが感情認知能力の発達に関与している可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
子どもの感情表出データベースは、計画では、6種類の感情(喜び,怒り,悲しみ,驚き,恐怖,嫌悪)を5タイプのシチュエーションで表出してもらい、また、表出の物理的特徴は性別や発達段階によって大きく異なるため、2性別(男性,女性)×2世代(小学生3・4年生・中学生)を各グループにつき20名ずつ収録する予定であった。しかしながら、小学生では驚き、恐怖、嫌悪の区別が難しかったため、喜び、怒り、悲しみの3種へと限定した。また女子は中学生の場合、月経周期が情動表出に影響することが明らかとなったので。男性のみに限定した。以上二点の変更は、申請当初にも記述した想定の範囲内での変更である。情動認知と社会性に関わる遺伝子多型との検討については、平成24年度の検討に先立ち、23年度に検討を行った。また性ホルモンに関わる遺伝子を計画以外にも追加し、情動認知能力との検討を行った.
|
Strategy for Future Research Activity |
課題(1):自閉症群を対象とした感情処理能力の評価 昨年度において確立した課題について、自閉症児20名、成人の自閉症者20名を対象に実施し、感情処理能力についての評価を行う。課題(2):健常群および自閉症群における感情処理能力に関わる脳・内分泌メカニズム脳機能測定:24年度後半は、感情能力の測定課題に従事中の脳機能イメージングを実施する。脳機能計測では、非侵襲の脳機能計測装置(NIRSおよびfMRI)を用いて、感情処理や社会性に関連が深いとされる前頭前野(fMRIを用いる場合には大脳辺縁系等)について計測を行う。NIRSを用いた計測は簡便に実施することが可能であることから、主に子どもを対象として実施する。対象者の数はそれぞれ小学生高学年15名、中学生15名、成人15名とする。当初の予定では自閉症者についてはfMRIによる測定を行う予定であったが、自閉症者を対象としたfMRI測定では、アーチファクトが混入しやすいと判断し、より簡便な方法である近赤外分光法(NIRS)による測定法とすることとした。またNIRS計測では大脳辺縁系などの内側部の脳活動が捉えられないことから、健常成人を対象としたfMRIによる脳機能計測も実施する。 内分泌測定:ホルモン水準が感情処理能力に差をもたらす可能性が考えられるため、テストステロン、エストロジェン、プロジェステロン、オキシトシン、バソプレシンを対象としたホルモン測定を行う。また、ホルモンの機能水準は受容体の遺伝子多型による影響があると考えられることから、DNAの採取を行い、それぞれの受容体の遺伝子多型と感情処理能力の関連性について検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず設備備品については、次年度は購入の予定はない。 次に、消耗品についてであるが、次年度は、今年度に先立って行った社会性に関わる遺伝子多型の判別を本格的に開始する。遺伝子多型の判別プロセスにおいて、SNPの判別ではTaqMan Genotyping Assayを用いることで作業を効率的に行う。次に、繰り返し多型の判別についてであるが、当初の予定では、PCR産物に対するシークエンシング解析を外部に受託する予定であったが、本学の施設と消耗品による判別方法を今年度に確立することができたので、「その他」のシークエンシング外注費を、繰り返し多型判別のための消耗品費および施設使用費へと振り替える。 また、謝金等についてであるが、ヒトを対象とした評価実験では実験参加に対する謝礼が必要となる。今年度のプレ実験により、自閉症者を対象としたfMRI測定は、参加者への負担が大きいと判断したため、より簡便な方法である近赤外分光法(NIRS)による測定法とすることとした。以上の変更により、fMRIによる測定人数を当初の計画の半数とし、NIRSによる測定人数を倍に増やすこととした。それに伴い、それぞれの謝金の合計金額とfMRI使用料がそれぞれ変更する。また、NIRS実験をスムーズに行う際に、研究補助が必要である判断したため、fMRI使用料の減額分を研究補助のための謝金とすることとした。 研究成果の発表のために、各年度ごとに2回の学会参加費(旅費、参加費)と論文投稿料を確保している。加えて、24年度は海外誌へと論文発表するための論文校閲費が必要である。
|